(1)
ついに王城の中へと入る。門や壁は特に贅を尽くしている感じでを見受ける事は出来ない。寧ろ、”質素”に、頑丈に出来ている。だからこそ、先ほどまでの貴族の屋敷の感じに違和感を覚える。貴族の屋敷に最近改築したような印象を受ける。城の内部は、下に赤い絨毯が敷かれている。数十メートル先に大きな扉が一つ、横にも扉が複数あった。
「国王様、お連れしました」
兵士が声を掛けて傅くと扉が重たい音を奏でて開く。先には小太りで身ぎれいな王冠を被った如何にもな王様が、金を基調とした椅子に座っていた。そのまま兵士達に促されるままに、王の前に出る。とりあえず…頭を下げておけばいいか。俺はどこかで見た光景を思い出して真似をする。座って片膝を立てて、片腕を前にし頭を下げた。
「よい、表を上げ。」
「はい」
そう言われて顔だけを上にあげる。王様は何やらにやにやしている。なんだこいつ…なんだか気味が悪いな。今まで会ったどの人間よりも、自分の欲を優先して居そうな感じがするぞ?
「余はコルトランド王国二代目国王のコルトランド二世だ、そちの名前は何という?」
「私はオーキチです」
国王は”うむうむ”と頷いている。そんなことが確認したかったのか?そんな訳ないだろう?どんな要求をしてくるんだ?
「そなたを招集したのは他でもない、国のために戦え、という事だ」
「その話ですが、何故戦争をしているのですか?」
「何故?とな?そうじゃな、話しても良いぞ?」
コルトランドは俺を見つめながら話し始めた。
事の発端はコルトランド二世が国王になった頃、この世界の和平条約が破られそうになる事件が発生した。和平条約は単純に、人間側のコルトランドと魔王側のイトベリアが争いを避け、平和に暮らすために土地を半分に分けて生活するために造られた条約の事。これをイトベリアが破棄しようとしているとコルトランドが聞きつけた。
この世界の大陸は六角形で、半分ずつを人間と魔王で収めているが、”亜人”という種族の誕生により、イトベリアが少しばかり国境をはみ出した事が原因。問題はそこじゃない、何故、亜人が生まれた事に対して許容することが出来ないか、だ。王の脇には奴隷が居るのだが、これを見れば原因は明らかだ。
人間は人間至上主義で、人間以外は種族として認めない姿勢を見せている。そんな国と和平を結ぶなんてことは不可能だろう。特に、イトベリアは王の傍に居る奴隷を見る限り、人の姿をしていて獣の耳や尻尾がある、獣人みたいな種族が多く居るのだろう。
「亜人が人間の領地に入るのも気に食わないからな」
「では隣に居る奴隷はどうなのですか?」
拳を握りしめながら聞く。俺はこの世界については詳しくないが、獣人は人の形をしている以上、意志疎通が出来るのだろう。それを勝手に奴隷にするなど、驕りが過ぎる。今は我慢せねばならない。今ここで王に飛び掛かろうものなら俺が死んでしまう。
「これは余のコレクションじゃ!いいじゃろ?」
「はは、いいですね……」
「それにの、奴隷を集めているのにそれをイトベリアは拒むからな?」
「は?」
「イトベリアに奴隷を採取しに行っていたのにな、悲しい事よ」
コルトランドが鼻息を荒げて話している。採取って、植物か何かか?獣人にも魂があるんだぞ?意思があるんだぞ?それなのに……。当然植物にだってあるだろう。”こいつ”にとって人間以外はなんでもない、遊び道具って訳か。本当に…ここまで腐った奴は初めて見た。人間とは思えない。
「今はまだ攻め込めていないがな、これから攻め込む予定だ」
「はぁ…」
「それでそなたは戦争に行く事になったわけだ」
「いえ、別に行かないですけど」
コルトランドがぽかんと口を開けている。何言ってるんだ?行くわけないだろ?そんな個人的な事情に首を突っ込みたくない。青年はこんな国を平和にしようとしていたのか?無理だ、これは腐りきっていてとてもじゃないが平和にならない。一回潰された方がいいかもしれない。
「そなたに拒否権はないぞ?」
「はい?」
コルトランドが指を鳴らす。すると、兵士がぞろぞろと出てきて、俺を囲んでくる。うわぁ…何となく思っていたけど逃げられないな。これ、どうしよう。英次、助けてくれ。サイドステップじゃ躱しきれないわ。
「分かりました…」
「じゃあ、王都の宿に泊まると良い。明日迎えに行かせる」
「分かりました」
来た、チャンスだ。逃げる準備は出来ている、この国にはもういる必要がない。ただ…この世界に来て早々に指名手配を受けることになる…かな。本当に、どうかしているよ。
「では、帰ります」
「うむ」
王は席を一回も立たずにそのままの姿勢で見送ってくる。どこまでも横柄だ。王宮を出て、歩きながら作戦を練る。この国から逃げるために。確かこの大陸は……正六角形と言っていた、という事は…このまま王都を出て突っ切れば他の領地に着くことが可能なのではないか?
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