(1)
とりあえず、悪いのはコルトランド王国側だ、というのは分かった。ただ、それだけでここまで大事になる物か?何故、ここまで大事になってしまったのか、という一点が問題だ。この感じだと人間側が仕掛けて、魔王側が応戦しているのだろうな。国王は咳払いを一つ挟んで語りだした。
この大陸は正六角形の形をしていて、東側がコルトランド王国、右側がイトベリア王国らしい。正六角形の大陸の地図とか見て見たいと思ったけど、地図なんかくれないだろう。それぞれの王国に八つの領土が存在している。西と東の境界線は戦争で結構荒れているらしい。先代の国王とは仲が良かったのだとか。
うん、聞いてる限りでは、お前の所為で崩れたんだよ?コルトランド二世?やりたい放題やってるんだろうな?誰も何も言わないんだろう?独裁状態じゃないか。側近で政治をする人もいないし、国王がやれ、と言えばやるんだろうな?
「おい、客人をもてなせ!」
「?!」
「すまぬ、驚かせたか?客人が居ると言うのに、全く気が利かないやつだ。」
誰に向けての言葉なのかな。何やら足音が複数聞こえる。もてなせ、とは隠語か?駄目だ、こっちの世界に来てから、まともに考えることが出来ない。平和な世界から来ているからな…。命を容易く奪える世界に来てしまったから、暗殺の言葉を考えたくなってしまう。特に、権力者の前に居ると。
「んな?!」
「どうした?」
なんでこれを普通に見ることが出来る?メイドが全員人間以外の種族じゃないか?お前が高貴がどうのとか言ってたのに、何をしている?
「余のコレクションだ、これが戦争の二つ目の理由はこれじゃな?」
「……は?」
「奴隷集めを拒んだのがきっかけだったな」
こいつ…どこまで腐れば気が済むんだ?なるほど、申し訳ないけど、いい情報ではあるか。奴隷として扱えるスキルのような物があるのだろう。戦闘系以外で優遇されそうなスキルではあるな、胸糞悪いけど。はぁ…、ここまで贅の限りを尽くしてやることが奴隷集めとか、国民はどう受け取っているんだ?
「時にお主は、どんなスキルを持っているのだ?」
あ~…これは隠しておいた方がいいか?もし仮に、奴隷として扱われてしまうとまずいよな、俺も嫌だし。かといって、スキルなしって言うのも無理があるか。何か手頃なスキルがあればいいんだけど…。あ、普通に剣術スキルとかでごまかせばいいか。どうせ剣でしか戦わないし。
「剣術のスキルです」
「そうであったか、なら戦争に力を貸してくれるか?」
「そういったことは行わない主義でして」
では、と退散しようとしたところ、何故か衛兵が俺の周りを取り囲む。う~ん…難しいか、この作戦じゃ。しまったな…どうすればいいか。一応、やるとだけ答えて王都を去ろう。どちらにしろ追われるけど、戦争に加担しなくて済む。魔王領土まで逃げるか~…面倒だな。
個人的にはどちらにも加担したくはなかったし、面倒ごとは避けたい。しかも、この体の意志を反映するなら、平和な世界を実現したい、だ。平和になりそうな気がするのは、魔王側であって、人間側じゃない。まぁ、はい、と言わないといけないからな。一旦いうか。
「分かりました、そうしましょう」
「うむ、賢明な判断だな?」
脅してくる癖して、賢明な判断だと?お前…どの口が言ってるんだ?はい、しか選択肢を与えてないのに?
「明朝に兵士を向かわせる、それまでに準備を済ませておくのだぞ」
「承知しました」
そういうと、衛兵たちは下がった。そのまま王宮を後にして、王都を出ていく。夜の方がいいかと思ったけど、全くこの世界の事を知らない。どうすればいいかね、これ。必要ないんだけど…とりあえず魔王に会ってみるか。被害者側の話を聞きたいよな、うん。そういう事にしよう。
王都から移動するのに、徒歩以外は許されない。俺が王都から出た痕跡を残すことは、追ってきてください、こちらに逃げました、と言っているようなものだ。ここが東ってことは、西に向かっていけばいいから、王都を背にしてずっとまっすぐ行けば何かに当たるんだろう。そもそも、明朝って事は、今の時刻が分からないが時間は残されていないはずだ。
どれぐらい歩いただろうか、体感的に四時間ぐらいだろうか。目の前に村らしき所が見える。そこは、他種族がわいわいしている場所だった。これこそが、平和な世界なのだろうか。ただ、あのクソ国王がこんな事を許すのか?疑問に思いながらも、村に入ってみることにする。
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