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 受付のお姉さんは表情を変える事無く、事務仕事を済ませてくれる。近衛兵だけ驚いたのは何でなの?騎士とか兵に対してだけ横柄な態度を取るとかそういう貴族なのだろうか。うわぁ…一番嫌いなタイプだが。関わりたくない。でも、ギルドがあるのに、戦闘のスキル持ちだけ優遇されているのは他にも理由がありそうだな…。

「出来ました、これを持っていてくださいね」

「ありがとうございます」

「システムはご存じですか?」

「全く存じてないです」

「では説明いたしますね?」

 この世界での冒険者ギルドは、依頼を出す形ではないらしい。魔物の討伐を個人個人で行い、討伐証明となる物を持って帰ると換金される。武器や防具を強くすることに繋がるし、食料にもなるため国から冒険者ギルドはお金をもらってやりくりしているとか。これ、死亡率高いだろ。難易度なんかも決まってないし、魔物って言ったっていっぱい居るんだろ?高難易度の魔物と遭遇しない方法とか教えてくれないんだ?

「分かりました、ありがとうございます」

 最大級のスマイルを渡すも受付嬢は顔を変えない。本当に良く仕事が出来るのかもしれない、分からないけど。心配なのはどの魔物が一番弱いか、それと実力を試せるかだ。スキル”実況”の初お披露目ではあるが、自分自身も意味が分かってない。いや、やり方は分かるけど。敵を実況するとどうなるの?即死するの?それは…どうなの?倫理的に。

 王都を出て、森林に入っていく。元居た場所に帰ってきて、作戦を立てることにした。魔物がどういう感じなのか分からないし、どうすればいいかもわからない。考える事だけが武器になる。事前情報は、自分の意志で剣を振ったりすることが出来ない、という事。剣筋がブレるとかなんとか。記憶に入っていただけだけど。試しにやってみるか

 林をかき分けていくと、色々な魔物の存在が目に入る。小動物系の魔物から大型動物系の魔物まで、さまざまいる。自分が居た世界の動物と同じ形をしているけど、問題はそこじゃない。大型の魔物が元居た世界の動物に比べると、一回りぐらいでかい。これを剣一本で倒すのは流石に…しんどいだろう。

「う~ん…どうするかな。」

 腹が減ったし、小さい魔物でもいいんだけど。気配を察知するのが得意みたいでガンガン逃げていく。追いかける気力だって残されていない。このままだと餓死する。真ん中に鎮座している大きな魔物は…三メートルぐらいある大きなイノシシ型の魔物。ああ、あれがいいか。

 という流れで、今目の前にあるのがその魔物の肉の塊。大きいな、素人ながら血を抜いてみたけど…生臭いのだろうか。とリあえず焦げるぐらい焼けばいいんだろう?この世界に寄生虫とか言う概念があるかどうかは知らないけど。森が燃えないように、地面が土のところで焚火をして焼いてみる。肉の焼ける良い匂いがする、これはいけるな。

「ぐあ~…食った食った!」

 魔物の肉はイノシシっぽい味がしたから、きっとイノシシという概念なのだろう。便利な言葉だな、概念って。いっぱい使わせてもらおうかな、ダメか。実況者だし、実況しないと。あ、もう肉は食べきっちゃったんだ。今度は食べてるところを実況してみようかな、グルメレポートはしたこと無いからきっと…美味しいしか言わないけど。

「足りるのか?これだけで」

 肉はもちろん足りている。肉以外の部分は討伐証明になるから、所持している。バッグに詰め込めないな、とか考えていたら、バッグが勝手に吸い込み始めた。意味が分からない、恐るべし、異世界。収納が無限なのは確認出来たし、今度は違う魔物でも狩りに行ってみるか。

 少し歩いた所で今度は蛇型の魔物を見つけた。ワイルドボアを見つけたと思ったら今度はボアか…何か仕組まれてないか?面白さ重視で危険に会わせてきてない?戦法はさっきの感じでやればいいか。精神を分離する感じで…。

 出来ました、始まりますよ、今年一番の注目株、俺事オーキチ選手の二戦目!ワイルドボアはイノシシですが、イノシシと戦うのもかなり危なかったのに、今回はボア、大きな蛇でございます。この蛇は見るからに元居た世界の大きさとは異なりまして、先ほどの魔物よりもさらに大きいサイズとなっております。オーキチ選手なんて一飲みでしょうね。どう思われますか、オーキチ選手!

「頑張ります」

 あ~と!声を出したことにより気づかれてしまった。蛇に睨まれた蛙のように、今は動けないのでしょうか。いや、これは相手の動きを慎重に見極めて行動しているように見える!良い作戦ですね、蛇の目をしっかりと見つめて、魔物との距離を見定めます。問題はこの後の行動でございますね。蛇は瞬間的に素早い動きをしますから、しっかりと対処が必要だ~っと?!蛇がわずかに頭を引いている、これはおびえているわけではない、攻撃をする一歩手前の事前動作だ!

「シャー!!」

 ここです、今です、回避行動!流石、反射神経に自信があるオーキチ選手です!見事なサイドステップ!木に噛みついた大蛇の姿は滑稽でありますね、もはや得意の噛みつきを使えない大蛇は敵ではないのか!ここで、オーキチ選手が攻める、訓練していた体から放たれる斬りつけは閃光の一太刀!!が、剣が弾かれてしまう!どこを狙えと言うのか、これはあえて飲み込まれて口の中から攻撃をするしかないのか、どうなのだ!

「はは、めっちゃもごもごしてる、大木咥えてどうしたんだ?」

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