(3)

お姉さんが初めての登録の際に聞かせてくれた話。この世界でのギルドは、王国騎士に成れなかった者がする仕事という認識。更に言えば、ギルドから依頼を出す事などはせず、討伐を行った時にその魔物の証明部位を提示することで換金されるシステムだ。全ての素材を買い取る事も可能という事だった。

「登録すらしていないのに森に入ったのですか?」

「ええ、そうですね」

「なるほど…まぁ、今から登録すれば大丈夫ですね!」

 お姉さんは笑顔で答えた。なんだろう、凄い違和感を覚える。この世界の人間は人が死ぬことに慣れているのか?誰かが死んでも日常茶飯事なのだろうか?そうか、元居た日本という国が特別に平和だっただけで…こういうのは当たり前なのかもしれない。

「何か目安になる物…ってないですか?」

「目安…と言いますと?」

「こんな生物を狩るのがおすすめ、とか」

「ははは、そんなものはありません!自分で切り開いて行ってください!」

 お姉さんは手を前に差し出してひらひらとしている。あぁ、替えはいくらでもいる、って事ね。あ~……嫌な事を思い出すな。新人の時に良く言われていたな、”お前の替えなんていくらでもいる!”って。俺の替えなんて存在しないし、俺という存在は俺しかいないのにな。

 やるせない気分を抱えつつ受付を後にする。考えなければいけない事は山ほどある。一つ、戦闘に関しての知識を持ち合わせていない俺がどこまで戦う事が出来るのか、二つ、スキル実況とは一体どういう物なのか。初の戦闘ではなんとか受け入れる事が出来たけど、まだまだ全体を把握することは出来てない。後、この世界に関する知識がまるで足りない。何故か青年の知識を探しても、人間に関係している知識以外は出てこない。

「うんと…厄介だよな。」

 実力を試すためには、戦闘を行わなければならない。しかし、戦闘を行うための知識が不足している。う~ん…倒すことができればそれに越したことは無いんだけど……。作戦だけ立てて見るか?実際に戦わなければタダだからなぁ。頭の中を整理してみるとしよう。

 この実況というスキルはまず、自分自身に対して実況を行わなければならない。そうしないと、剣すら振るう事は出来ない。ただし、日常生活に支障はない。後、何故か自分を俯瞰してみることが出来ている気がする。第三者視点から見ているというか…なんというか。自分の動きを自分で演出する、という感じだ。

 俺のやりたかった事と偶然なのか、必然なのか、一致している。実況を続けたい、と願っていたのは事実だったから。例えば、スポーツに当てはめて行く感じで……。英次の動き、か。英次は確かにサーブルをやっていたんだけど、あれをトレースするとか俺に出来る訳が……。いや、これも何かの縁だ、やってみるか。

「はぁ…決まってしまったなぁ…。」

 英次が俺に”進めよ、前に”と言っているみたいに、森の中へ足をもう一度踏み入れる。小さい獲物でも見つかってくれればなぁ……。なんて、思ってた時期が俺にもありましたよ。目の前に現れた、この世の生物とは思えない全長をした大蛇を見つめて溜息を吐く。周りの木々をミシミシと音を立てながらなぎ倒していく様は、もはや神としか思えない。

 えぇ…これを倒す、と?後ずさりしそうになる。丸呑みされて終わってしまうんではないか?いや、しかし…ここで諦めてしまうのもあれか。第二の人生で、スキル実況を授かって、英次の事を思い出すとか…タイミング良すぎでしょ。あいつ、空で面白がっているんだろうな。

「英次の余生のために、余興をしているんじゃないっての。」

 もし、”お前の仕業”なら、俺を送り込むなら、もっと人の温かさを感じる事が出来る場所にしてくれよ。せめて…日本と同じぐらい平和な世界で。いや、日本も別に平和か?と言われればそこまで平和でもないか。

「とりあえず…手筈通りに行かせてもらうか?」

 なんだ、手筈って?俺はこんな大物を倒すための手筈なんて整えたか?心臓がどきどきと早鐘を打っている。一回死んでいても、死は怖い物なんだな。簡単に”死”を克服できるのなら、きっとダラダラと何もせずに、考えずに生きるんだろうな。なんて、考えていたら、足元にあった枝を踏んずけて”ぱきっ”という音が鳴った。

「あ、やばい。」

「……。」

 大蛇は大きな下をペロペロと出しながらこちらを見つめている。試合開始のゴングを鳴らさなければ、俺は死ぬかもしれない。だけど、動くことが出来ない。文字通り、蛇に睨まれた蛙の気分を体験してしまった。

「シャー!!」

 ここです、今です、回避行動!流石、反射神経に自信があるオーキチ選手です!見事なサイドステップ!木に嚙みついた大蛇の姿は滑稽でありますね、もはや得意の噛みつきを使えない大蛇は敵ではないのか!ここで、オーキチ選手が攻める、訓練していた体から放たれる斬りつけは閃光の一太刀!!が、剣が弾かれてしまう!どこを狙えと言うのか、これはあえて飲み込まれて口の中から攻撃をするしかないのか、どうなのだ!

「はは、めっちゃもごもごしてる、大木抱えてどうしたんだ?」

 この世界では俺の想像通りにしていいんだろ?遠慮する必要はない。だったら、実況も煽りも想像通り、どんな言葉でも投げかけてやろうか。

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