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 そういえば、この寄り掛かっている大木。見た事無いよな。一見枯れている木に見えるんだけど、地面の下から枝が生えてて、葉もついてる。上を見上げれば、根っこのような枝が生えているし。そもそも、この木以外は普通だ。この木が作用して転生とか?そうだった…ワードチョイスを間違えてバチバチに炎上して死亡…とほほ、忘れていたかったよ。落ち込んだわ、これ。とりあえず…顔でも洗おうかな。

 水辺が無いか探索してみる。丁度近くに川があった。顔を洗ってすっきりしたところで、川に映っている自分を見る。え、誰だこれ?顔はかなり若いけど、西洋風な顔つきで…金色の髪?こんなに綺麗な、は?!さてはかつらか?!引っ張っても取れない、か、なら地毛だな。切れ長の目に垂れた眉で…可愛い系のイケメンかな?それが俺?なるほど、異世界転生って事か。って、納得できるか!!どう考えたって、夢だろ?そういえば、髪の毛引っ張ったら痛かったな…夢じゃない?

「ははは…嘘だ?」

 そういえば、三十歳になってから体が重かったけど、無くなってるわ。うん、夢じゃないのか、これ。で?俺はここで何をすればいいと?こういうのって神様が出てくるものじゃないの?貴方は自由に生きなさい?とか言ってくれないの?縛られて生きるのは嫌なんだけど?

「よっこらしょ」

 もう一度大木に寄り掛かる。なんだか、頭に記憶が浮かんできているような…。痛っ?!頭が急激に居たくなり、頭を抱える。どうした?!ここで死ぬのか?!嫌だな、こんなところで死ぬのは…。頭に浮かんでくるのは…俺のじゃない記憶っぽいな。

 様々な記憶を見て、大体の事は理解できた。ここはコルトランド王国領、周辺の森。俺は年齢十五歳で貴族の息子らしい。この世界では十五歳は成人の年齢で、スキルが天啓で与えられるとか。コルトランド王国では、戦闘に携わるスキルを持つ物が優遇されるらしい。元の体の持ち主は”実況”というスキルのせいで、追い出されたとか。母親が賢帝の魔法使い、父親が剣王の英雄の間に生まれていて期待されていた。それなのに、訳の分からないスキルを持って生まれてきた。このスキルを授かってから、剣も満足に振れず、言葉の意味も理解することが出来ずにここで…という事か。

「なるほどな、それは可哀そうだ」

 勝手な期待は重過ぎるな。それだけでプレッシャーになるし、厄介払いまでされてしまうわけだ。どうなってるんだ、この世界は。望まぬ子どもなどいないはずなのにな~…。青年の最後の望みは…世界平和、本当にどの世界でも望まれることなんだな。その夢は俺が叶えてやろう、一人で出来るかどうかは分からないけど。

「とりあえず、飯だな」

 持ち物…金…ゼロ?嘘じゃん。ここから調達しないといけないわけ?クソ親父め…少しの金ぐらい息子なんだから持たせてやってくれや!子供が出世したら、悪かった、と金の無心に来るんだろ?絶対やらねぇからな。そもそも、コルトランド王国領にずっといるかどうかも分からないしな。多分、ハローワーク的な何か…ゲームとかだとギルドか!があるだろう?行ってみるしかないよな。

 森林から外れて、ちょっと行った所に舗装された道が確認できた。これをどっちに行けば城下町まで行けるのだろうか。ぐるっと一周見て見たら、何やら城壁に囲まれたお城が確認できた。あれが、王都なのだろう。十分ぐらい歩いたら、到着した。立派な城門と城壁に囲まれて、中には家々が立ち並ぶ。立派な街なのは確かだ。城門をくぐろうとすると、重装備の兵士が槍を出して来た。

「通行証か身分証は持っているか?」

「……?」

「四角いカードのような物だ」

 そんな物持っていたか?持ち物をガサガサ漁る。あ、あったわ、これか。きらきら光る四角いカードを出す。兵士に見せると、二秒か三秒ぐらい時が止まる。しばらくしてから、カードを返しながらお辞儀をして「失礼いたしました、どうぞ、通ってください」と丁寧に言われる。あ、もしかしてこれ、貴族の特権か何かか…?それだと少しまずいか。カードを急いでしまって、町の中に足早に入った。

「ギルドってどれだよ、ていうかギルドって何?」

 途方に暮れていた。おかしい、もっとサクッと見つかる物じゃないの?ていうかギルドってなんだよ。何?意味は知ってるよ、組合だろ?そうじゃないだろ!はぁ…なんだよこれ。どこ見ても同じ家しかないんだよ。王城とその周辺以外は。看板が出ているわけでもないし。誰だよ、こんな事しているのは。この国の王か、なるほどね。

 ん?あれ、冒険者か?重装備しているけど…いや、近衛兵かもしれない。この国は何故か知らないけど皆重装備している。要らないだろ、そんなに。本当に戦争起こすんじゃないだろうな?嫌だよ?戦争に駆り出されるとか。武勲が欲しいわけでもあるまい。まぁ…手がかりがないし、着いて行ってみるか。

 なんの変哲もない、近辺の家より少し大きい家に入ってみる。中は、洋風な木造の作りをしていて、酒場のようだ。普通に酒場なのか、ていうか美味しい酒とか提供できるのか?魔法が発達して居たら…やりたい放題か。奥のカウンターらしき場所を見て見ると、そこには受付と書いてある。カモフラージュしなきゃいけないのか?

「こんにちは、ここで冒険者に登録できますか?」

「そうですよ、出来ます」

「何が必要ですか?」

「身分証だけ提示していただければ」

「分かりました。」

 すっと身分証を提示する。まぁ、貴族がどうとか関係ないだろ。どうせ行き倒れて魔物の餌にでもされてしまえ、と両親は思っているだろうし。殺しに来ることもないだろう。どこかで好き勝手やってくれ、の追放だろう。そしたら、身分証だけは好き勝手使わせてもらうとしようか。

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