(1)

 な、なんだ?何で意識があるんだ?というか…真っ暗闇なんだが?未練が残りすぎて幽霊になった……とか?それか、死後の世界がある?けど、落ちている…というか引っ張られている感覚?があるような。

「……。」

 声を出すことも出来ないし、体を動かす事も出来ない。ただただ、導かれているような…?

 一瞬の光が体を包み込む。眩しくて目を瞑りたいのに、光は体に流れ込んでくる。何も動かせない…どうすればいいんだ……?吸い寄せられているような…?!うわぁ?!なんだ?!急に全体的に明るく…?!

「な、なんだ?!」

 辺りを見回す。普通の森みたいだ。普通の……森?おかしい、俺は死んだはずだ。死を受け入れられなくて…?いや、ありえない。でも、死んだところを自分で確認出来たわけじゃないし…。というか、妙に体が軽い。着ている服を見ると、見覚えのない服を着ている。というか、これは鎧?軽鎧に見える。

「こんな服…買った覚えもないし。そもそも軽鎧なんて売ってない。」

 寄り掛かっていた木を見る。明らかにおかしい。一見普通の木なんだけど、根っこが上側に生えているし、葉っぱが下側に生えている。上下逆さだが、他の木はこんな感じではない。木もよく見れば、日本に生えている木には見えない。

 もう…なんなんだ?何一つうまく行かないじゃないか。はぁ…とりあえず何か飲んで落ち着きたい…。森の中なら川ぐらいあるだろう。一旦、歩き出してみるか。

「で…川はあった。うん、誰?これ?」

 顔を洗ってすっきりしたところで、川に映っている自分を見たわけなんだけど。え、誰だこれ?顔はかなり若いけど、西洋風な顔つきで…金色の髪?こんなに綺麗な、は?!さてはかつらか?!引っ張っても取れない、か、なら地毛だな。切れ長の目に垂れた眉で…可愛い系のイケメンかな?それが俺?

 あはは、あれだ!自分が現実を直視出来なくて幻覚が見え始めたってやつだ!相当精神が終わってるな。……だけど、幻覚にしては良くできてる。ていうか、こんな顔をした人間でもキャラクターでも視た事がない。幻覚なら、なりたい自分とかになるはずだろう?試しにこの綺麗な髪をもっと引っ張って……。

「いてぇぇぇぇ!!」

 痛みを感じる、う~ん……現実的に納得出来そうなのは何だ?とりあえず…ここに居ても何も出来ない。そこら辺をうろついてみるか。何もしなきゃ死ぬだけだし、死んだら死んだで英次の所に行けるだろう。

「とか思っていたんだけどね。」

 目の前に転がるイノシシの化け物を見て呟く。実際死のうとも思えなかったし、死にたくない、と切に願ってしまった結果だ。そして、切っても切り離せなかった実況、これのおかげで死にはしなかった。この体のおかげでもあるが。

 この体の持ち主の様々な記憶が流れ込んできて、大体の事は理解できた。ここはコルトランド王国領で人間の領地周辺の森。俺は年齢十五歳で貴族の息子。この世界では十五歳は成人の年齢で、スキルが天啓で与えられるとか。コルトランド王国では、戦闘に携わるスキルを持つ物が優遇される。元の体の持ち主は”実況”というスキルのせいで、領地を追い出された。母親が賢帝の魔法使い、父親が剣王の英雄の間に生まれていて期待されていた。それなのに、訳の分からないスキルを持って生まれてきた。このスキルを授かってから、体が言う事を聞かなくなってしまった。スキルというのはそれぐらい強制力のある物、故に強さに直結する。

「これは現実……か。」

 異世界転生?転移?した、という事実を飲み込むしか出来ない訳だ。はぁ…俺はしがない実況者で、なんの能力も持っていなかったんだけどな。それでも、実況を続けられるのなら…。”英次、俺もうちょっと頑張ってみるよ”と空に向かって呟いた。

 イノシシの化け物の肉を少しばかり頂戴して火を起こして焼いてみた。結果、味はかなりいい事が分かる。ここを仮に異世界と認定した、として。イノシシと分かる程度の獣が出てくるのなら問題はないはずだ。金が無くてもこうやって狩をすることは出来る。運よく狩れただけ、かもしれないのだが。

「これ、残りをどうするかな?」

 というか、剣しか持ってないんだけど?鬼畜の所業じゃないか?流石に色々な物を持たせてやれよ…可哀そうに。ん…?よく見ると、なんか腰に袋がついているような…?うわ?!なんだこれ、俺の手が吸い込まれた?!ていうか、イノシシの死体も吸い込まれた?!どうやって取り出すんだ…?

「うわ?!出て来た?!」

 大きなイノシシの死体が”意志”によって出たり入ったりする。腰の袋の中身は大きな空間になっていて、荷物が大容量しまえるようになっていた。なんで分かったかって?実験してみたから……そこら辺の石をめちゃくちゃ詰め込んで。

 バッグの性能は確認出来たし…いざ……?そういえば目的を決めてないな。どうしようかな?この世界に人間と他種族が暮らす領地がある事は分かっているんだが…人間に関わるのか…嫌かも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る