THIRD・FRONTLINE

@hagenomiya1121

プロローグ

暗く冷たい夜だった。

「スー…スー…」

ルームメイトたちは、深い眠りについている。消灯された部屋には窓から月の光が差し込み部屋のテーブルには柔らかい黄色の光が当たっている。それでも学生寮男子棟の室内は漆黒さながらに真っ暗だった。

 がさっ・・・

左右に配置された二段ベッド右の下段で、音が鳴った。

ナットはルームメイトたちを物音で起こさないよう細心の注意を払っていた。だが、友人たちの寝息はその姿に似つかわしくないもので、とても大人しいものだった。おかげで少し体勢を変えただけで、部屋には毛布やシーツに体がこすれる音が響いてしまった。

「ふぅ・・・」

時計の秒針が動く音をはっきりと知覚する。自分の脳はまるっきり覚醒していると自覚させられているようだった。

部屋のほんの片隅にだけ音が行き届くように、SD(スマートデバイス)の音量を上げる。ナットはいよいよかと期待した瞬間が訪れるのが待ち遠しいようで、自分の心臓の鼓動が勢いづくのを感じた。

まもなくSD(スマートデバイス)の画面に動きがみられた。少年は緊張の面持ちで待ち受けている。

「・・・・我、ザール・ケオリューク・デオ・カーナミラークの名において、宣言する。大帝国は永遠である。」

SD(スマートデバイス)から発せられた映像は、男のある宣言から始まった。画面端には「生中継」と書かれており、この放送が現在世界のどこかからリアルタイムで配信されているものだとわかる。

「虐げられてきた帝国の民らよ、仰望(ぎょうぼう)せし力は、わが手中にあり。すべての手はずは整った。」

「怒れる帝国の民らよ、我らに立ちふさがるものすべてに・・・


不死鳥の洗礼を・・・」


男の宣言はそれを最後に、放送は何の前触れもなく終了した。

「誰だ・・・起こしやがったのは・・・」

再び静まり返った部屋にルームメイトの声がしたもんだからナットは飛び上がりそうになるほど驚いたが、急いで毛布にくるまってそれまでおとなしく寝ていたテイを装った。子供の時、親が寝入った時間に始まる秘密のゲームタイムのような緊張感を味わったナットは、無邪気な表情をしていた。とても寝ているふりが出来てるとはいいがたいほど。

ナットは、ルームメイトたちが奏でるいびきのワルツに加わろうとわざとらしく寝息を立てる。


明日は当然のようにやってくる。脳裏によぎるそんな当たり前の世界のルールは、彼を心地よい眠りにいざなうのにうってつけだった。


暗く寒い夜だった。そして、とても穏やかだ。

だが、冷たい暗闇が世界を永遠に包み込む日が、いつの日か来るだろうか。

夜は珍しく、赤い恒星が月の真横でまばゆいていた。赤熱した眼光が彼らの住まう惑星を睨みつけていることなど、その夜を過ごす住民は誰も知らなかった。



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