七色ボールペンと鉛筆(原案:keco様)


 ある日、とある筆箱の中にいたフリックボールペンの黄色がふと口を開いた。


「おい、紫」

「なんだ? 黄色」


 黄色に話しかけられて、紫色も目を覚ます。


 紫色が何事かと思っていると、黄色が妙なことを指摘した。


「お前、最近減りが早くないか?」

「赤がなくなったから、代わりにオレをよく使ってるんだよ」

「ずるいよな、濃い色は。俺もたくさん使ってもらいたいのにさ」


 黄色がブツブツ言うのを見て、今度は水色が口を挟む。


「それを言ったら俺も同じだよ。水色なんてほとんど使われない。その点、黒や緑はいいよな。絶対使うし」


 そんな風に不満を漏らす水色に、緑色は謙遜してみせる。


「俺はまだ半分だから」


 が、それは逆効果だった。


「一か月でもう半分も使われてんのか!?」


 緑色の使用量に驚く水色だが——そんな中、紺色が口を挟む。


「お前たち、何を騒いでるんだ」


 紺色が訊ねると、黄色は口早に告げる。


「騒いでない。濃い色の方がよく使われるって話をしてるだけだ」


 黄色が羨むような視線を濃いメンバーに送る中、黒色はまるで当然のように告げる。


「それはそうと、俺はさっき替芯入れてもらったけど、お前らはいいのか?」

「ケコちゃん、今日の帰りに替芯買うって言ってたよな?」


 紫色も頷きながら言った。


 ケコちゃんとは、筆箱の持ち主のことだった。


 替え芯を買ってもらえる、その言葉に喜んだ紫色と緑色は「やった!」とハイタッチ。


 だが、その行動が他のメンバーの反感を買った。


「始まったよ、替芯自慢」


 静かに怒りをほとばしらせる黄色とは違い、素直に羨ましいと言う水色。


「いいな……しばらく替芯入れてもらってないよ、俺」


 水色がそう告げると、レアカラーの藤紫色が何かに気づく。


「ん? 黒と紺は、消しゴムに色がついてないか?」


 そうなのだ。彼ら、カラーフリックペンたちには、頭に消しゴムが備えられているのである。


 消すことができるボールペンと評判だが、淡い色たちには、ほとんど意味のないことだった。


「どうせ、俺は消しゴムを使っても色なんてほとんど付かないんだ……」


 黄色がそんな感じで不貞腐れる中、紺色はため息を吐く。


「そういえば俺は黒に似てるから区別できないとか言われて、ほとんど使われないんだよな」


 悩む紺色をよそに、藤紫色は自慢する。


「俺は最近、授業中の内緒話に使われるぞ。見えにくいから先生に見つからないとかで」

「同じ紫のくせに生意気な! ていうか、なんで紫が2本もいるんだよ」

「それはケコちゃんが『可愛い色♡』とか言って俺を買ってくれたんだ。それに俺は紫じゃなくて、藤紫だ」


 藤紫色が大声で主張すると、黒がぴしゃりとたしなめる。


「おいおい、静かにしろよ。近所迷惑だぞ」


 すると、ペンたちの騒がしさに起こされたチムラというメーカーの鉛筆がぼそりと呟いた。


「おめぇたつはいいよな」

「あ、チムラの鉛筆さん。こんにちは」


 水色が挨拶するもの、耳が遠いチムラ鉛筆には届かなかった。


「わしは消すゴム使いすぎて、ハゲこさえられてよ……もう、消せねぇだよ」

「チムラさんにも消しゴムがあったんですか」


 紺色の言葉に、チムラ鉛筆は遠い目をして告げる。


「昔は背も高くて……脚もスラーっとすて、かっこよかったのによ」

「チムラさん……人の話聞いてない」


 紺色が呆然とする中、チムラ鉛筆は一人で喋り続けた。


「ガリガリ削られて、おめぇ。こんなチンチクリンだべした」

「あ、そうなんですか……」


 黄色が気のない返事をする中、チムラ鉛筆はようやくペンたちの目を見て告げる。


「アンタら、どこからち(来)た? 日本製か?」

「いえ、韓国製です」


 藤紫色の言葉に、チムラ鉛筆はうんうんと頷く。


「ちれい(綺麗)な『べべ』ち(着)てよ…」

「やっぱり聞いてない」


 藤紫色が呆れる傍ら、緑が誰となく訊ねる。


「ねぇ、べべって何?」

「なぬ!? べべ知らねぇのか?」

「あ、はい(今回は聞いてたんだ)」

「べべったら、べべだ。あの……あれだ、あれ……べべって何だ?」

「知らんと喋ってたんかーい!」


 黄色がツッコミを入れるもの、チムラ鉛筆は何を思っているのか、笑っていた。


「じいさん……ボケてきたか……」


 黒色が密かに心配をするが、


「なんか、使われるとか使われないとか、ばかばかしくなってきたよな」


 水色は妙に納得する。


「そうだな。いつかは俺たちもチムラさんみたいに……」

「なるのか!?」


 紫色の言葉を拾った緑色はショックを受けていた。


「そういえば、おめぇたつは、どこから来(ち)たんだ?」

「やっぱりボケてる……」


 紺色が呆れた目で見る中、チムラ鉛筆は笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

擬人化物語 #zen @zendesuyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説