擬人化物語

#zen

ガムテープとマスキングテープ


「なあ、マスキングテープ」


 ある日、ガムテープは隣にいるマスキングテープに話しかける。


 彼らはそれぞれ、ミミという少女の所有物で、机の上に鎮座していた。


「どうしたの? ガムテープ」


「……お前はいいよな、おしゃれで女の子に可愛いがられて」


 花柄のマスキングテープは、ミミのお気に入りだった。


 嫉妬が絶えないガムテープは、とうとう羨むような言葉を口にした。


 すると、マスキングテープはフォローするように告げる。

 

「いきなり何を言うの? ガムテープ。君は万人に重宝されてるじゃないか」


「万人って言ってもな……みんな扱いがひどいんだよ。贈り物の箱を頑張って蓋してても、手で破るやつとかいるんだぞ。ぐっちゃぐちゃにされた時の、俺の気持ちがわかるか?」


「それを言ったら、僕だって使う時点で手で切られることが多々あるよ」


「それがまたおしゃれに見えるのがマスキングテープだろ。俺だって壁に貼ってDIYとか気取ってみたいよ」


「ガムテープだって、最近おしゃれな柄があるだろう?」


「あれはもう、ガムテープじゃないんだよ」


「じゃあ、なんなんだよ」


「おしゃれガムテープだ」


「それを言ったら、マスキングテープだって同じだろ。おしゃれなやつとそうじゃない奴がある」


「だがマスキングテープイコールおしゃれテープみたいなイメージがあるだろ」


「何を言うかと思えば、マスキングテープはそもそも養生資材だったんだぞ。塗装で汚さないために貼るのが目的だったんだ」


「そうか、養生資材が下剋上をするなんて、マスキングテープはすごいやつなんだな」


「ガムテープこそ、この世でどれだけ消費されてると思っているんだ。テープ界では1、2を争うだろ」


「マスキングテープこそ、この世でどれだけ女子に消費されてると思っているんだ」


「可愛い子はガムテープだって使うぞ」


「だがマスキングテープとは使う時の気持ちが違うだろ。うきうきしながらラッピングする女子の手で俺もちぎられたいんだ」


「ガムテープだってウキウキちぎってるかもしれないだろ」


「違うな。ガムテープはあれだ、ラーメン屋で〝なると〟をトッピングするくらいの感覚だよ」


「ラーメン屋の〝なると〟ってかなり重要じゃないか」


「〝なると〟を乗せるということは、もう完成して終わった感しかないんだよ。ガムテープを貼る頃には全て終わってるんだよ」


「違うよ、ガムテープ……トリを務めるということがどれだけ大事なことなのかわかっていないのか?」


「どういうことだ? マスキングテープ」


「つまりはガムテープなしでは贈り物はできないってことだよ。ガムテープのない世の中を想像してみろよ。みんな箱開けっぱなしだぞ。ガバガバのセキュリティで箱を送ることができると思うか? 違うだろ、ガムテープがいなければ、贈り物だって送ることができないんだ」


「マスキングテープ……」


「だからガムテープ、そんなに自分を卑下するものではないよ。ガムテープにはガムテープの良いところがあるんだから」


「ありがとう、マスキングテープ……俺は自分の価値をわかっていなかったようだ。だがマスキングテープのおかげで、これで前に進め……」


 ガムテープが言いかけた時、部屋に少女が入ってくる。


 少女は何かを探している様子で、机の上を物色していた。


「ちょっと、花柄のマステどこいったの?」


 それを見たマスキングテープはガムテープに告げる。


「じゃあ、ちょっと呼ばれてるみたいだから、またな」


「あ、見つけた。やっぱり可愛いな……これで手帳をデコらなきゃ」


 そんな時だった。


「おい、ミミ。ガムテープを知らないか?」


 少女の父親も、部屋に現れる。


「パパ。ガムテープならそこにあるよ」


「ああ、あったあった。ついでに梱包を手伝ってくれないか?」


「いいけど——ヤダ、なにこの箱の中身。汚いんだけど」


「パパの本だよ。そろそろネットで売ろうかと思って」


「ヤダ、なんか臭いし」

 

 娘が汚いものを触る手つきで父親の箱に触れる中、ガムテープはしくしくと泣いていた。


「どんまい、ガムテープ!」


 マスキングテープは他人事だった。





              



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