ファンレター

佐倉明人

第1話

 届かないファンレター。今も、あなたに届いていますか。もちろん、あなたは返事をしてくれなくて。私は、今日も待っている。もし、あなたと同じ仕事ができたら、そう思って考えて、必死になった、あの日から。私は、変わってしまったのだろうか。色づく世界が暗くなる。そんな気がしてたまらない。

 小説を書くことは、すべて、あなたのためだった。あなたに会うため。出会うため。

 ひと目見たときから、私は気づいた。あなたとは縁がある。そう、あなたの小説を手に取った瞬間。あなたの名前が気になった。あなたの名前に惹きつけられた。私は、あなたに惹きつけられた。私の世界に少し色がついた。ほんの、わずかに輝く世界が彩りに。あなたを知って、私はあなたのファンになった。

 しかし、あなたからの返事は来ない。ファンレターを送っても、もちろん、返事など返って来ない。返って来ないまま、月日だけが流れてく。今でも、月日だけが流れてく。

 先生。2006年は、終わらないのですか。疑問。

 私は、ただ、あなたと一緒に小説が書きたい。私は、あなたの書く小説が好きだから。あなたの書き方が好きだから。あなたの弟子にしてください。私と、一緒に小説を書いてください。例え、そう願っても、思う気持ちは届かないまま。

 そして、あなたは、書くのを辞めた。ある日、突然、辞めてしまった。理由は、なぜだか分からない。専業作家になるのだと、宣言までしていたのに。なのに、どうして。どうして、辞める。どうして、辞めてしまったのか。ファン達は、皆、待っていた。そう、あなたの書く小説を。私も信じて待っていた。

あなたの書く小説を。

 私の世界は、暗くなる。色づく世界が暗くなる。私の中で、2006年が終わらない。

 あなたの事が知りたくて。もっと、作品を読みたくて。私は、あなたのファンの内の片隅の、隠れファンの内の片隅の、さらに、隠れた1人です。

 いつの間にか、あなたは小説界から姿を消した。2006年が終わらないまま。あなたは、小説を書いていないらしい。

 先生。どうしてですか。新装版は出ているのに、新しい小説を書いてください。そして、続きも書いてください。

 そして、私をあなたの弟子にしてください。一番弟子でなくてもいい。私は、あなたの弟子になりたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る