第28話 色々

『マリンチェリー西岡真桜についてお知らせ。

 この度はファンの皆様、関係者の皆様に多大なるご迷惑をおかけしてしましたことを深くお詫び申し上げます。西岡真桜の交際についてですが、本人に事実確認した所、事実である事がわかりました。この行為は重大な規約違反であり、本人とも話し合った結果、本日付で西岡真桜はマリンチェリー脱退、解雇となりました事を報告させていただきます。今後のマリンチェリーの活動に関しては……』


 翌日、真桜は事務所に呼ばれ、その後公式ホームページと公式SNSアカウントから真桜が解雇になったという報告がされた。

 マリンチェリーはまだグループとしては音楽番組で偶に見かけるくらいだが、真桜は個人でバラエティや情報番組に出ていて、わりと知名度はあったのですぐにニュースになった。やはり真桜の純朴で天然なイメージのせいで数日間は世間からの風当たりはキツかった。

 けれど日が経ってくると、否定的な意見ばかりでもなかった。それまでファンでなかった層からはアイドルに恋人がいてもいい、辞めなくてもいいのではとの意見も多々あり、今まではあまりなかった女性からの支持が増えたりした。


 それに真桜もこれでアイドルを辞めるわけではなかった。社長は黒木レンと旧知の仲らしく、社長からもアイドルを続けられるよう黒木レンにお願いしたようで、流石にすぐにとはいかないが、少し間を置いたら移籍が発表されるそうだ。


「……これで一応なんとかなったのかな」


 あとは俺が真桜と暮らす為に大学を辞め、東京へ引っ越す事だけ……か。黒木レンからは覚悟を決めたのであれば大歓迎と言われたので真桜のオリオン移籍と同時に俺もオリオンで働くことになりそうだ。

 しかし、俺のことに興味のない親父はともかく、麗奈にどう説明するかが一番悩み所である。そしてもう一つの悩みが……。


「ただいま〜」


 そんな事を考えていると真桜が帰宅してきた。


「おかえり、真桜」

「はぁーもう手続きやら謝罪やらで疲れたよー……」


 真桜は部屋に入るなりすぐに俺の元へ来て、俺の胸に顔を埋める。ここ数日は関係者への謝罪やらで忙しいようだ。


「お疲れ様。一応晩御飯にオムライス作ったよ。……卵はまだ焼いてないけど」

「本当!? だからなんかいい匂いしてたんだ。もうお腹ぺこぺこだよ〜」

「じゃあすぐ作るよ……って真桜……」

「んー?」


 真桜は俺に抱きついたまま、どうしたのと言わんばかりに顔を見上げて首を傾げる。


「いや用意しに行くから離れてくれないと……」

「えー、だってまだ今日の楓君を補充してないもん」


 そう言って真桜はさらに腕に力を入れる。

 そう、これがもう一つの悩み。こうやって甘えてくれるのは嬉しいのだが、最近少し俺にくっつきすぎなんじゃないかと思うのだ。ちょっとコンビニに行くのも一緒についてくる。というかもう一週間くらい真桜の家にいる。まぁ別に用事はないからいいのだが、流石にあと一週間くらいで春休みが終わるので一度帰っておきたい。


「真桜……そろそろ」

「そろそろ……?」


 そろそろ一度家に帰ろうと思う。と言いたいのだが、前に言った時の真桜の不安そうな顔を思い出し、結局言えずにいた。


「……ご飯の用意するから離れてくれると助かるんだけど」

「はーい……」


 その後、オムライスを食べた後、シャワーを浴びて就寝の準備をする。

 真桜が髪を乾かしている間にスマホを見ると、麗奈からメッセージが来ていた。

『まだ帰ってこないの?』か。麗奈には炎上して真桜が心配だからと伝えてはいるが、さすがに一週間も泊まるとは言ってなかったので最近はいつ帰ってくるのかという催促が多い。


 帰ったら麗奈にも東京で真桜と住む予定だと伝えないといけない。麗奈の気持ちを聞いてしまった以上、この事を伝えて起きるであろう面倒なことばかりを想像してしまう。まぁそのことは帰ってから考えよう。そう思いとりあえず『ごめん。真桜も落ち着いてきたから近いうちには帰ろうと思う』とメッセージを送る。


「何してるの?」

「真桜!?……な、なんでもないよ」


 背後から声をかけられ、振り向くと真桜が立っていた。びっくりしてついスマホを隠してしまう。


「んー怪しい……! 誰かにメッセージ送ってたんじゃないの?」


 そう言って真桜は疑うようにジーと俺を見つめる。さすがに真桜に麗奈にメッセージを送っていたと言うのは言わない方がいいだろう。しかし疑ってきている以上何も無いと証明しないといけない。


「……親父だよ。大学辞めるのに色々話さないといけなくて」


 咄嗟に俺は嘘をつく。いや、親父に報告しないといけないのは本当なので全くの嘘ってわけでも無いのだが。


「…………確かにそうだよね……親には言わないとだもんね」


 ありがたいことに真桜はあっさりと信じてくれる。この感じなら親父に呼ばれて帰らないといけないというふうに伝えれば帰れるかもしれない、そう思い真桜に言ってみる。


「それで……その、親父が一回帰ってこいって……大学のお金とかも出してもらってるから……」

「……そっか。それなら仕方ないね。それでいつごろ帰る予定なの?」

「あー、うん、それなんだけど……早めのがいいかなと思って明日には帰ろうかなと……」


 俺は真桜の様子を見ながらそう伝えてみる。

 てっきりまた駄々をこねるんじゃ無いかと思っていたが、意外にもあっさりと認めてくれた。


「わかった。いいよ。その代わり……フフ」

「その代わり……?」


 真桜は何か企んでいるかのような笑顔を見せる。なんか嫌な予感がするな、と思っていると真桜はこう言ったのだった。


「私もついて行くから」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女が人気アイドルになり遠距離恋愛になってから、地元の幼馴染が俺に迫ってくる。そして俺はそれを受け入れた。 カイマントカゲ @HNF002

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ