第27話 ヒヨク
翌朝。私は朝のアラームで目を覚ます。
スマホを見るとマネージャーさんから連絡が来ていた。内容は本当なら今日は朝から今度のライブのためのミーティングの予定だったが、謹慎中である私は自宅待機しろとのことだった。
まぁ正直私はもうマリチェリのライブに出る事はないんだろうなというのをなんとなく感じている。
いっぱい練習してきた歌やダンスももうする事はないんだと思うと少し寂しい気もしたが、もっと大切なモノがあるのでいちいち気にしていられない。
ふと隣を見ると穏やかな寝息を立てて眠る楓君の姿があった。やっぱり楓君は寝顔でもかっこいいなんて、つい惚気た事を考えてしまう。
楓君の顔は客観的に見ても整っている方だと思う。実際中学、高校と裏で楓君のことをかっこいいと言っている女子は結構いた。
それなのに楓君に言い寄る女子がそんなに多くなかったのは、麗奈ちゃんとよく一緒にいたからだろう。美人で有名な麗奈ちゃんとの二人は本当お似合いだった。私も最初は付き合っているんじゃないかと思ったくらいだ。
でも、そうじゃないとわかって、私が楓君といても釣り合うように頑張ってメイクを覚えたり、ファッションを勉強したりして可愛くなろうとした。そして私は楓君を手に入れた。
……なのに麗奈ちゃんは私の楓君と……。
ダメだ。楓君には麗奈ちゃんと関係を持った事許すっていたのに、やっぱり嫌な気持ちが消えない。楓君の唇も、舌も、指も、アレも全て麗奈ちゃんと触れて、絡み合って、繋がっていたと考えると嫌悪感が一気に込み上げてくる。
……麗奈ちゃんのことは嫌いじゃないし、大切な友達なのに。でも楓君との事を想像すると気持ち悪くて吐きそうになる。楓君には誰も触れて欲しくないなんて自分勝手な事を思ってしまう自分が自分で嫌になる。
もう離れたくない。ずっと一緒にいたい。
私はまだ眠る楓君の唇にそっとキスをする。そしてもう一度布団に入り楓君に抱きつく。
「んっ……? ま……お?」
流石に抱きつかれたのには気付いたのか、起こしてしまったようだ。
「あ、ごめんね起こしちゃって」
「んー……どうした?」
楓君は眠そうに目を擦る。
「ふふ、なんにも。ただ幸せだなって思って」
今私は最高に幸せを感じていた。
あんな事があってまだ問題は解決していないのに。まだこれから先もっと大変な事があるかもしれないのに。それなのに今は幸せでいっぱいだった。
「大袈裟だな……真桜は……すぅ……」
そう言って楓君は私の頭を優しく撫でると、そのまま力尽きたかのように眠ってしまう。
どうかこの幸せがずっと続きますように、なんでそんな事を願いながら私ももう一度微睡の中に落ちていくのだった。
♦︎
マリンチェリー所属の芸能事務所【LMプロダクション】社長、吉井三郎は、マリンチェリーのメンバー西岡真桜の事で悩んでいた。
西岡真桜は社長自らスカウトした少女で、元々彼氏がいるのを受け入れてまで引き入れた程思い入れのあるメンバーだった。この子は必ずアイドル界の大物になるそう睨んだ自分の目に間違いはなかった。そう思わせる程の活躍を彼女は見せていた。西岡真桜個人だけでなく、マリンチェリー自体の人気も上がっていた。
そんな中起こった今回の事件。
いつかはこうなるリスクは承知の上だった。だから彼女の人気が出出した頃に別れてもらうというのも何度か考えた。しかし彼氏がいる事が彼女のモチベーションとなっているのならと許す事にしたのだった。
だが、結果的に今、その事によって彼女を手放さなくてはならなくなっていた。いくら彼女の才能に惚れていたとしても社長として他のメンバーや社員のことを考えれば、そうするしかない。彼女がこのまま芸能界を辞める事は非常に惜しい……そう思っていた時だった。ある男から電話があったのは。
「吉井社長、お久しぶりです。黒木です」
「おお、黒木君! 久しぶりだな」
黒木レン、彼にはLMプロを立ち上げる前に所属していた芸能事務所の時代から世話になっていた。
「お宅の西岡真桜さん、大変そうですね」
「ああ……そうだな」
「真桜さん、辞めてしまうのですか?」
「……やむを得ん。他のみんなには恋愛禁止をルールにしている以上仕方ない」
私だって辞めさせたくはない、そう思ってはいるが、社長として仕方ない事なのだと、吉井は自分にいい聞かせる。
「そうですか……いいアイドルなのにもったいないですね。そうだ、僕にいいアイデアがあるんですけど聞いてもらってもいいですか? 真桜さんを助ける為にも……」
真桜を助ける為……そんなことが出来るのだろうか? しかし他に方法がない以上何かあるのなら聞いてみるかと考える。
「わかった。話してみてくれ」
「では……」
………
……
…
★
おまけキャラクタープロフィール
久保 楓(くぼ かえで)
誕生日: 9月19日 血液型: B型
身長: 178㎝ 年齢: 19歳
地元の大学に通う大学生でアイドルである西岡真桜と交際している。一見優しいように見えるが実際は人に嫌われるのが嫌で、相手のいいように流されやすいだけである。が、見た目がいいのもあって相手への印象、特に女性には良かったりする。
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