第17話 最低
朝。
目が覚めると隣で麗奈が眠っていた。久しぶりに人の暖かさを感じる。ベッドの外に脱ぎ捨てられた衣服を見て、改めて麗奈と関係を持ったのだと認識させられる。
麗奈は疲れたのかぐっすり眠っていてるので、俺は起こさないようにベッドから出る。そして服を着た後、時間を見るためにスマホを手に取り電源をつける。
「! ……っ」
目に入ったのは真桜からの着信履歴。そして電話に出ない俺を心配する真桜からのメッセージ。
……それを見て俺は一気に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
『寝てる? 昨日の今日なので心配で……。もし大丈夫だったら電話お願いします』
確かに昨日あんな事があった後だ。連絡がなければ心配してしまうだろう。
俺は流石に悪いと思いベランダに出て、真桜に電話をかける。今は朝の6時半、忙しい真桜なら起きているだろうか。そんな事を考えていると真桜が電話に出た。
『もしもし!? 楓君!?』
「ああ、昨日はごめん。その、疲れて寝ちゃってて……」
『ううん、いいの。それなら。前にあんな事があったから心配になっちゃって……』
「……ごめん、ありがとう真桜」
今の俺には真桜の優しさが逆に苦しかった。
『そんな謝らなくてもいいよー。身体の方は大丈夫?』
「うん。もうだいぶ大丈夫」
真桜じゃない女としたくらいなのだから大丈夫としか言えないだろう。もちろんそんな事は言えないが。
『あと、今度ゆっくり時間取れる時に話したい事があるんだけど……いつが空いてるかな?』
「俺は大体いつでもいけるよ。真桜こそ忙しいだろ? そっちにあわせるよ」
真桜と話をしていると、締めたはずのベランダの戸がカラカラと開けられる音がした。
「っ!?」
振り返ると一糸纏わぬ姿の麗奈が立っていた。朝日に照らされた麗奈の体は美しく、つい見惚れてしまう。……というかその格好でベランダに出たら流石にと思い静止したいが、真桜と通話中なので声に出せない。すると麗奈はその事を分かってか、ゆっくり近づき、背後から優しく抱きついてきた。
……俺の背中に柔らかくて暖かい感触が伝わる。
『楓君? どうかしたの?』
「い、いや……ちょっと……ごめん、後で掛け直す!」
『え、ちょっとかえ……』
俺は慌てて通話を終わらせる。
「麗奈! 何やって……っ」
その瞬間、俺の唇は麗奈の唇で塞がれた。それは軽く触れるだけだった昨日の麗奈とは別人のようなキス……。麗奈の肩を持った俺の手から力が抜ける。
「……麗奈……ど、どうした?」
「真桜と電話してたの?」
「……うん」
「やっぱり……」
麗奈は少し寂しそうな表情を浮かべる。そらそうだ。昨日好きだと言って、セックスまでした相手が朝になると違う女と電話。……自分のことながら最低だと思う。
「麗奈……部屋、戻ろ?」
「……うん」
俺は麗奈と部屋へと戻る。
「服……着たら?」
「うん……その前にシャワー浴びてくるわ」
そう言って麗奈はシャワーをしに、床に置かれた衣服と下着をもって、浴室へと向かった。
「……はぁぁ……」
俺は麗奈がシャワーを始めた音を聞いて、大きくため息をついた。
これからどうしようか。
真桜の事を考えると罪悪感に苛まれる。真桜は俺のことを思ってわざわざ仕事もあるのに会いにきてくれた。それなのに俺は麗奈と……。
でも、麗奈の事を愛おしく思った気持ちも嘘ではない。それに真桜は……真桜はいつ俺の元から居なくなるかもわからない。アイドルとしてもっと多忙になるだろう。そうなった時俺の隣にいてくれるのは……。
「すぅ……はぁぁ」
深く深呼吸して、ベッドにパタンとうつ伏せに倒れ込む。
……とりあえずまた後で真桜には電話しないと。今度大事な話があると言っていた。その時に俺も聞いてみるしかない。真桜はこれからの事をどこまで考えているのかを。
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