第15話 真実
翌日、特に異常のなかった俺は無事退院することとなった。そして迎えにきてくれた麗奈と一緒に一旦麗奈の家に帰った。
「色々とありがとな麗奈」
「いいわよこれくらい。……それより、その、朝ごはん……作ったのだけれど……食べる?」
「おお、丁度腹減ってたからもちろん!」
そう答えると麗奈はキッチンからサンドイッチを持ってきた。
「これ麗奈が作ったのか?」
「そ、そうよ。み、見た目はアレだけど味は大丈夫よ……多分」
サンドイッチは見た目は特に変ではないが、よく見るとパンの厚さがバラバラだったり、欠けていたりしていた。たしか前に味噌汁をもらった時に料理は一人だとあまりしないと言ったのを思い出す。
「いただきます。……うん、うまい!」
「そ、そう……ならよかったわ」
実際味は美味かった。というか普通にレタスとツナが挟んであるだけなので余程のことがないと不味くはならないだろう。
「こっちも貰うな」
「あ、そっちは……ちょっと……」
「ん?」
麗奈は不安そうな顔をしているが、気にせず次はレタスとトマトが入ったやつを手に取る。トマトがうまく切れずグチャッとなっていたので、それで不安そうな顔をしたわけか。別にそんなこと気にしないのに。
それよりも俺のために普段料理をしない麗奈が用意してくれたことが嬉しかった。
「形なんて食ったら一緒だろ……うん、うまい! 麗奈も食おうぜ」
「……ありがと」
こうして俺たちはサンドイッチを平らげた。
♢
サンドイッチを食べた後、麗奈は食器を洗っていた。至って普通のことなのだが、何処か麗奈に対して違和感を感じていた。
サンドイッチを作ってくれたことも別に変なことではない。ありがたいことだ。だが、なんか最近の麗奈は違う気がしていた。
なんというか大人しくなった? いや、大人になったのか? 昔はもっと気の強いイメージだったのに。……こんな言い方をしてはいけないかもしれないが、女らしくなったような。
「……どうしたの楓?」
「え、いや別になにも……」
「そう。しんどかったりしたらいいなさいよ。まだ怪我人なんだから」
「う、うん」
麗奈は俺がじっと眺めていたのに気づく。が、特に咎められるわけでもなく、むしろ体調を気遣ってくれた。
♢
その後も特に何も起こることなく、テレビを見たり、色々くだらない会話をしたり、昼食を作ってくれたりして過ごしていた。気がつくともうすっかり夜になっていた。昨日真桜が泊まったのもあって布団も出したままだしというので、今日は麗奈の家に泊まる事にした。
「……ねぇ楓、ちょっと聞いて欲しいことがあるの」
「? どうしたそんなあらたまって」
俺が布団をひいていると、麗奈は真剣な表情をして声をかけてきた。そして麗奈は小さく深呼吸し、口を開いた。
「私、楓に謝らないといけない事があるの」
「謝らないといけない事?」
麗奈が俺に謝る? 一応何かあったかと考えてみるが、特に何かされた記憶はない。
「……ストーカーの件あったでしょ?」
「ああ、店でいつも声かけられてるってやつ」
そう。麗奈からは変な客がいると相談を受けた。後をつけられてる気もするって。
「……あれ、嘘だったの」
「え?……で、でも、昨日確かに来てたじゃないかあの、太った男……」
そう、昨日怪しい男が来て、麗奈もあいつだと言っていた。確かに先輩が相手してくれるからなんとか大丈夫とは言っていたけれど。
「……ごめん、半分嘘って言った方がいいかも。あの人が私にしつこく話しかけていたのは本当。けれど、後をつけられたってのは嘘」
「……そ、そうなのか」
ストーカーは嘘。しかしその事実は喜ばしい事だ。心配だったので逆に嘘でよかったまである。……けれど気になるのはなぜそんな嘘をついたのかだ。
「……私がこんな嘘つかなければ楓はこんな目に遭わなかったのに……」
「ストーカーが嘘だったのならよかったよ。でもなんでそんな嘘を?」
麗奈は俯き、口を閉ざす。
「……!?」
一瞬の出来事だった。
麗奈がこちらに近づいてきたと思った瞬間、俺の唇に何かが触れたのを感じた。
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