第13話 心配
俺が真桜と出逢ったのは中一の冬だった。
麗奈が新しい友達と紹介してくれたのがキッカケだ。真桜は一年の時は違うクラスだったが、一緒に帰ったり、放課後に遊んだりして仲良くなっていった。
真桜はカラオケが大好きでその頃から歌が上手かった。初めは三人でよく行っていたが、麗奈が生徒会に入ってからは二人で行くことが増えていった。
そして高校も三人とも同じ高校に進学した。
二年の冬、三人で街で遊んでいると、カラオケ大会のイベントが行われていた。そこで俺が真桜に冗談半分で出てみたら?と言った。そしたら真桜は出てもいいけど、その代わり優勝したら一つ願い事を聞いてほしいと言った。
そしてカラオケ大会で真桜は見事優勝し、その後の優勝者インタビューで真桜は大勢の人が見ている中で、俺に付き合って欲しいと告白したのだった。
それを俺は受け入れて、以降俺たちは恋人同士の関係になった。後に聞いたことだが麗奈は真桜に告白の相談をされていたようで、俺達を祝ってくれた。真桜が恋人になっても麗奈は俺の大切な幼馴染で親友だ。俺たち三人はずっと一緒だとそう思っていた。真桜がアイドルになるまでは。
……なんで今更こんな事思い出しているんだろう。これは夢……か? とりあえず早く起きないと。
「んんっ……」
目を覚ますと白くて明るく眩しい天井が視界に広がった。
「楓君!! 大丈夫!? よかった……!」
「……真桜?」
まだ俺は夢を見ているのだろうか。そこには涙を浮かべる真桜の姿があった。真桜は東京にいるはずじゃ……ていうかここは何処なんだ? 風景からして病院なのだろう。
「ここは病院? なんで……」
「堀ちゃんから連絡があったのよ。あんたが堀ちゃんを庇って怪我したって。……何も覚えてないの?」
真桜の後ろからは麗奈が現れる。二人が一緒にいるのを見るのはなんか懐かしい気がした。
「れ、麗奈? 俺は……そうかあの時……」
そうだ俺はゲーセンで堀ちゃんといたおじさんに殴りかかられたんだった。それで麗奈に迎えに行けないのを伝えようと思って……それからの記憶がない。
「思い出したみたいね。ホントもう……心配したんだから」
「ごめん麗奈……」
「べ、別に謝らなくていいわよ。……堀ちゃんも凄く心配してたわ。……真桜が来るっていうから帰らせたけど。また一言メッセージでも送ってあげて」
「……うん」
彼女には怖い思いをさせてしまった。あの感じだとあのおじさんからお金をもらっていたのだろうか。ああいう人は何をしてくるかわからないのが恐ろしい所だ。
「真桜もわざわざ来てくれてありがとう」
「私、楓君が救急車で運ばれたって聞いて怖くて、頭が真っ白になって……。それで新幹線で急いで来たの。本当によかった……無事で」
「真桜……」
真桜はベッドから上半身だけ上げた俺に抱きついてくる。それを俺はやさしく抱きしめ、頭を撫でる。
「でも仕事は大丈夫なのか?」
「大丈夫……じゃないかも……。あ、でも一応朝イチで帰ればなんとかなるかも? とりあえずマネージャーさんに連絡してみる」
真桜はそういうと少し電話してくると病室を出て行った。仕事があるのにこっちまで来てくれたことが素直に嬉しい気持ちもあるが、仕事の邪魔をして申し訳ないという気持ちの方が正直大きかった。
「……体の調子はどうなの? 先生は命に別状はないって言ってたけど」
真桜が出て行った後、麗奈が俺に問いかける。
「うーん、頭がちょっと痛いけど大丈夫だとは思う。色々迷惑かけたな、ありがとう麗奈」
「そうね、今度焼肉でも奢ってもらおうかしら……フフフ」
「焼肉か……わかった」
麗奈は冗談っぽくそう言って微笑む。それに釣られて俺も軽く笑う。そんな麗奈とのやりとりにどこか安心してしまう自分がいた。
麗奈といると楽だ。
逆に真桜といると……。
一瞬考えてはいけない言葉が頭に浮かびそうになったのを掻き消す。
そんなはずはない。俺は真桜のことが……好き、なはずなのだから。
そんなことを考えていると、ガチャッと音が鳴り扉が開く。真桜が帰ってきたようだ。
「真桜、どうだった?」
「電話して聞いたら朝イチで帰ればなんとかしてくれるみたいで。事前に連絡しろって怒られちゃったけど……」
真桜の仕事がなんとかなったようで一応ほっとする。今や真桜の言動は真桜だけでなく、周りの人たちにも大きな影響を与える。もう俺のような一般人とは背負っているものが違うのだ。
♢
「じゃあ私達はそろそろ帰るわね」
「ごめんねバタバタしてて。今度休みの日ゆっくり遊ぼうね!」
「そうだな。二人とも遅くまでありがとう」
真桜は今日は麗奈の家に泊まり、その後朝イチの新幹線で東京まで戻るそうだ。俺の入院も1日だけで、明日の朝にも異常がなければ退院する予定だ。
「退院の時間わかったら言いなさいよ? 迎えに行くから」
「了解。サンキュー」
「……お父さんには言わなくていいの?」
「…………ああ。……じゃあ気をつけてな」
こうして二人が帰り、病室内はシーンと静まり返る。俺は忘れないうちに堀ちゃんに無事だったとメッセージを送る。
今日は本当色々あった一日だった。流石に疲れていたのか目を閉じるとすぐに意識が薄れ、俺は眠りについたのだった。
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