第10話 不安

「れ、麗奈……お前こそなんで?」

「なんでって……ここでバイトしてるのよ」


 バイト……そういえばカフェでバイトと言っていたのを思い出す。それにしてもまさかここだったなんて。


「んー? 麗奈ちゃんと久保さんって知り合いなんですかー?」


 なんとなく気まずい空気の間に堀ちゃんが入ってくる。そうだ、堀ちゃんもここでは働いているという事は、麗奈とももちろん知り合いだ。


「あ、ああ。昔からの付き合いで……まぁ友達って感じかな? なぁ麗奈」

「そ、そうね。友達……そう、友達」

「へー、そうなんだ。ってことはー、麗奈ちゃんも真桜ちゃんと知り合いってこと?」


 それを聞いて麗奈は俺の方をキッと睨みつける。この様子だともしかして麗奈は堀ちゃんに真桜の事を言ってなかったのか?


「……そうよ。中学高校の同級生」

「えーなんでもっと早く言ってくれなかったのー!?」

「……楓、ちょっと」


 麗奈は堀ちゃんの質問は無視し、手招きして俺を呼ぶ。そして周りに聞こえない程度の小声で俺に尋ねてきた。


「堀ちゃんに言ったの? 真桜と付き合ってるって」

「いや、それは言ってない」

「それならいいけど。てか、なんであんたが堀ちゃんと一緒にいるのよ?」

「それは……えっと、偶々そこのCDショップで出会って……」


 そんな話をコソコソとしていると、麗奈は早く仕事に入って欲しいと店員さんに頼まれる。


「はーい、すぐ行きます。……まぁこの話はまた後で聞くわ」


 そう言い残すと麗奈はスタッフルームへと消えていった。


「麗奈ちゃんとも仲いいんですね」


 席に戻ると堀ちゃんが残り少ないパフェを長いスプーンで混ぜながらそう言ってきた。


「そうなのかな? まぁあいつとは付き合いは長いからな」

「そうなんですね……」

「それよりあいつちゃんと仕事やってるか?」

「うん、麗奈ちゃん要領いいし、仕事早いし。なにより顔も綺麗だし……」


 顔か……。まぁ確かに幼馴染で見慣れているとはいえ、客観的に見ればかなり美人に入るだろう。

 真桜はふんわりした雰囲気があって愛嬌もあり、可愛らしい感じだが、麗奈はスタイルが良くクールさもある綺麗な感じだ。

 今思うとよくこんな二人と一緒に居れたなと思ってくる。


「脚も長いし、スタイルもいいよねー。それに比べて私は仕事あんまできないし、スタイルもちんちくりんだし……」


 そう言って堀ちゃんは俯く。仕事に関してはわからないが、スタイルに関しては確かに堀ちゃんはちっさくて155センチの真桜よりも小さく感じる。だが、彼女の明るくて人懐っこい感じは小柄な体も合わさって小動物的な可愛さを感じさせる。


「……そんな事ないよ。堀ちゃんも可愛いって。麗奈は綺麗系だし、あの店員さんも綺麗だし。だから堀ちゃんみたいな可愛い系も大切というか……表情も明るくて接客にはそういうの大事だろうし……」

「ホント!? ありがとー久保さん!」


 堀ちゃんはまた元気が戻ったみたいで、さっきまでの明るい表情になる。テンションが上がったり下がったりと中々扱いの難しい子だ。


「久保さん」

「……ん?」

「久保さんってカッコいいですよね。顔もイケメンだし、話も面白いし、なにより優しいし」

「え、え? 俺? そんな事ないって……どうした急に」


 急に褒められて俺は驚く。褒められて嫌な気はしないが、あまりにも褒められすぎて変な気分になる。


「……ふふ、思った事を言っただけですよ? あ、そうだ。連絡先交換しませんか?」


 堀ちゃんはマリチェリのキーホルダーがいくつかついて重そうなスマホを取り出す。


「まぁ、いいけど」

「ありがとございます〜。また送るので返信くださいよ?」

「? おう」

「じゃあ、あたしはーそろそろ帰りますね! この後また予定があるので」


 連絡先を交換した後、堀ちゃんは席を立ち上がる。


「今日はありがとうございました。お金は気にしないでください。またお話ししましょーね!久保さん!」


 そして俺のコーヒー代も含めた金額をテーブルに置き、店を出て行った。


「やっと帰ったわね……」

「麗奈」



 堀ちゃんが帰ったのを確認すると、麗奈がテーブルを片付けに来た。


「どうした? 苦手なのかあの子」

「まぁちょっとね……」


 やっぱりそうか。堀ちゃんと麗奈のやりとりを見てどうも麗奈は苦手そうにしているのを感じていた。


「……ところで麗奈、例のストーカーの男ってのはまだ来てないのか?」

「そうね、今日はまだ来てないけど……」


 丁度麗奈がそう言いかけた瞬間、カランカランと鈴が鳴り、一人の男が来店して来た。

 何より目を惹くのは肥満体型。そしてメガネをかけ、無精髭を生やしている。服はヨレヨレのシャツと清潔感を感じない男だ。まさかこの男が? いやいかにも過ぎるだろと思った矢先。


「……あの人よ」


 麗奈は心底嫌そうな顔をしてそう言ったのだった。

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