第4話 カレシ
「真桜ー、お疲れ!」
「え、
今日最後の仕事である雑誌の取材を終え、帰宅しようと会社から出ると、派手で綺麗なプラチナブロンドの髪をキャップで隠し、サングラスをかけた小柄な女性が立っていた。
彼女の名前は
私も所属するマリチェリのメンバーで、私と同い年なのもあり特に仲の良い友人だ。
「いやーこの辺りで仕事だったんだけど、なんか明日に変更になっちゃって。それで真桜がここで仕事だったの思い出したから待ってたってカンジ!」
そう言って彼女はサングラスを外すし、笑顔でVサインをみせる。
「えー! ごめんね! 李砂ちゃんが待ってるなんて知らなかったからゆっくりお茶飲んだりしてて……」
「いいよいいよ。アタシが勝手に待ってたんだから。それより晩ご飯いこーよ!」
「ありがとう……うん、いいよ!」
李砂ちゃんはいつも元気で明るい。元々人見知りな私はマリチェリに入った当初、みんなに話しかけるのが怖くて困っていた。そんな時最初に声をかけて助けてくれたのが李砂ちゃんだった。
「それじゃ行きますか!」
こうして私達は夕食を食べに行くことになった。
♢
「んー美味しい! マジうますぎだよここのパスタ!」
「うん、美味しいね」
私達は李砂ちゃんのお気に入りでオススメだという綺麗なパスタ屋に来ていた。
「うまい! 美味すぎてうまいしかいう事ないもん。絶対アタシに食レポの仕事来ないわ。あははは!」
「そんな事ないよ。李砂ちゃんの表情からすごく美味しそうってのが伝わってくるから」
「そうかー? 表情ねー……あ、それなんだけどさ、昨日ドラマの撮影で、お前の表情からは本気の愛を感じない!って怒られちゃってさー……やっぱり芝居は難しいわ」
「へー、大変なんだねお芝居って」
李砂ちゃんは先月から始まった深夜ドラマに出演している。自分ももうすぐ撮影があるので他人事ではない。
「愛って言われてもなー……。アタシ彼氏出来たことないからわかんねーってカンジで……あ、今やってる役が主人公の浮気相手役でさ」
「うん。毎週観てるから知ってるよ。マサトの同窓会で再会した元クラスメイトで、ヒロインめぐみの親友だったユカリ役だよね」
李砂ちゃんが出ているのは、主人公マサトとヒロインで彼女のめぐみ、その親友ユカリが繰り広げるドロドロした展開がウリの恋愛ドラマだ。
「そそ! で、今撮ってるのはユカリがマサトにめぐみと別れて自分と付き合って欲しいって頼むトコなんだけどさー。本気でマサトが好きだ!って気持ちが伝わらないって言われて……ムズ過ぎってカンジ。真桜はわかる? 本気で好きって気持ち」
「本気で好きって気持ちかぁ……」
そう言われて頭には真っ先に楓君の事が浮かんだ。もし楓君に本気で好きだと伝えないといけないとしたら、ちょっと恥ずかしいけど出来そうな気がする。こんな風に言えばとか、こんな事をすればとか具体的な事は分からないけど。
「んー? なんかわかってそうな顔してない? もしかして真桜……彼氏いるカンジ!?」
「っ!…………」
「……え? その反応もしかして……マジでいるの?」
「…………えっと、それは、その……」
一瞬彼氏がいることがバレたと思ってドキッとし、額から汗がたらりと垂れるのを感じる。いないと言えばいいのだが、嘘をつくのが苦手な私は焦ってしまい黙ってしまう。
「えー! 絶対いるじゃん! その反応!」
「……ごめんなさい! 恋愛禁止ってルールなのに……」
変に嘘をついても嘘が下手な私ではすぐにバレてしまう。それならと思い正直に認めることにした。
「めっちゃいいじゃん彼氏! 私はいいと思うよ! あ、でもそれって社長やプロデューサーは知ってるの?」
「うん。スカウトされた時に楓君と別れなくてもいいならって条件で入ったから」
そう。本当は恋愛禁止だけど、みんなに秘密にしておくならと特別に認めてもらっていたのだ。
「なーるほどねー。じゃあいいじゃん! それより彼氏のこと教えてよ!」
「いいけどその、他のメンバーには内緒に……」
「OK! 友の秘密は守る! で、その楓君?の事詳しく話してもらおうか〜!!」
「う、うん。えっーと、出会ったのは中学の時で……」
♢
「〜で、今に至るって感じかな」
私は楓君との出会い、そして付き合いってからの事、アイドルになるキッカケなどを話した。
「なんだよーすっごくいい話じゃん! 少女漫画じゃん! でもその感じだと最近はあまり会えてないのかー……」
「う、うん……。でも寂しいって言ったら心配させちゃうから……だからもっと強くなって頑張ろうって」
彼はいつも本当に優しい。だからもし私が彼に甘えると必ず助けてくれるだろう。でもいつまでもそれじゃ彼が……楓君が疲れてしまう。
今まで困った時はいつも楓君が助けてくれた。だから強くなった私を、成長した私を見せないといけない。そのためには仕事を頑張って楓君に誇れる凄いアイドルになるしかないんだ。
「真桜ったらいい彼女じゃーん! 確かにいつまでも頼ってばかりじゃダメだもんな! よーし、頑張ってもっと仕事もらって、ドームでライブもやって、マリチェリを日本一のアイドルにするぞー!」
「おー!」
本当はもっと楓君とお話したいし、一緒にいたい。けれどそんな甘えを持っていてはこの世界で勝ち残れない。
楓君……私、絶対に日本一のアイドルになるから! 楓君が言ってくれた世界一可愛い彼女の名に恥じないように。そう固く強く決意したのだった。
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