第3話 本音
「うーん、結構買い過ぎちゃったわね」
そう言ってんーっと伸びをする麗奈。言葉では買い過ぎたと言いながらも嬉しそうな顔をしていた。
「それで、俺は荷物持ちに必要だったってわけか」
俺の両手には沢山の紙袋があった。もちろん全て麗奈が購入したものだ。
「別に最初はそんなつもりじゃなかったんだけど、たまたまいいのが多かったから買っとこかなって思ってね〜!」
「どうだか……で、まだ買い物は続けるのか? 流石に腹減ってきたんだが」
腕時計を見ると時刻は15時を回っていた。昼食も取らずに買い物していたので流石に空腹だ。
「そうね、私もお腹空いてきたしどっか寄ろっか」
俺達は服を沢山買ったからもうお金があまりないという麗奈の提案でファミレスに行くことになった。
そして注文したチーズハンバーグ定食を半分ほど平らげたところで麗奈から真桜の話題が出た。
「……ところで楓、正直なところ真桜とは最近どうなの?」
「どうって別に何も……」
そう。何もない。
確かに二人の時間は取れていないが、別に仲が悪くなっているとかはない。
「はぁ……真桜から相談されたのよ」
「真桜から相談?」
「そうよ。最近楓との時間が取れなくて寂しいって」
「……真桜が? 寂しい……って?」
いつもメッセージや電話では明るく、仕事の良かった話や面白かったことを話してくれていた。そんな寂しがる様子なんて無かった。
「やっぱり気づいてなかったのね。……本当は楓には言っちゃダメって言われてたんだけど……でもこういう事は分かってもらったほうがいいと思って」
麗奈にそう言われて俺は情けない気持ちで一杯になる。よく考えてみろ。真桜は一人で東京に行って、知らない人達の中で一人で戦っているんだ。真桜は人一倍寂しがり屋だってことは俺が一番知っているはずなのに……。
「最悪だな俺。真桜の気持ちに気付かないなんて彼氏失格だ」
「……ま、楓の気持ち、わからなくもないけどね」
「えっ?」
「最近真桜に自分は相応しくないって思ってきてるでしょ?」
麗奈はまるで俺の心を見透かしているかのようにそう言った。
「真桜はもう立派な芸能人。テレビの向こう側の人。それに比べてこっちはただの一般人。そんな気持ちにもなるわよ。……私だって真桜が凄く遠い存在に感じる時があるし」
「……俺は……」
そんな事はない、とは言えなかった。
最近感じていた事だ。真桜と自分はどんどん離れていく。物理的にも、精神的にも。
昔は真桜には自分がいないとダメだと思っていた。けれど気がつけば真桜は俺より遥か先に進んでいたのだ。
「……ねぇ楓、この後ウチに来ない? 今日真桜が出るクイズ番組あるでしょ? 一緒に観ようよ」
「……別にいいけど」
♢
その後、俺は麗奈のアパートにあがり、帰りに買ってきた夕食の弁当を一緒に食べて、テレビで真桜の出演するクイズ番組を観ていた。
『では赤チームの西岡真桜さん! 回答をどうぞ!』
『えーっと……生卵を投げる?』
『ブブーッ! 残念! 正解は毎朝カレーを食べる。でした』
『卵投げるって、あはは! キミおもろいな!』
『わはははっ』
テレビでは真桜の回答で盛り上がっていた。真桜の天然具合はウケが良く、ふわっとした可愛い系の容姿なのもあって今では天然キャラとしても人気を得ていた。
「こういう所は昔から変わらないわねー真桜」
「そうだな」
「いつも笑わせてくれてたもんね」
「真桜は笑わせるつもりで言ってないみたいだけど、それが逆に面白いんだよな」
麗奈は俺と真桜の昔話をしながら食べ終えた弁当を片付けていた。
「ああ、ごめん片付けさせて」
「いいわよこれくらい。私の家なんだし」
「そうか、ありがと。……そういや麗奈の部屋に来たの引っ越してすぐの時以来か」
「あー……確かにそうね」
麗奈は専門学校に進学してから学校に近いこのアパートに引っ越して一人暮らしをしていた。引っ越したと言っても同じ市内だし、今日みたいに駅前に集まれば全然すぐに会える距離だ。
「結構綺麗にしてるんだな」
「そ、そう……かしら?」
あらためて見渡すと、必要最低限の物しか置いてないのもあるが、家具やベッドは基本白で統一されていて清潔感がある。シンプルなデザインでありながらも、所々オシャレな模様が入っていたり、ワンポイントで黒や紺がはいっていたりと派手すぎず、地味過ぎずでさすが麗奈と言った所だ。
「うん。すごく綺麗だよ。家具のデザインも麗奈らしく大人っぽくてオシャレだし。色が白と黒系だけなのもいつもハッキリして自分を持っている麗奈っぽい」
「さ、さすがに褒めすぎよ! ……別に大した事ないんだから」
麗奈はそう言って否定するが、前髪をいじりながら頬をほのかに赤くしていたので満更でもないようだ。
『以上今週のクイズ!ヘクトゴンでした! それではまた来週〜』
「もうこんな時間、か」
テレビからは司会者の番組の終了を知らせる声が聞こえてくる。ということはもう20時か。
「さて、そろそろ帰るか」
俺は軽く伸びをして、立ち上がる。
「電車何時があったっけな……ってどうした麗奈?」
スマホで帰りの電車の時間を調べようとしたが、じっとこちらを見つめる麗奈の視線に気づき、手を止める。
「……楓、大学ってまだ春休みよね?」
「? まぁそうだけど」
「明日って何か用事あったりする?」
「いや、別に何も」
明日はバイトもないし、大学に行く用事もないし、友達からの誘いも来ていない。
麗奈はそう、と小さく呟いてから俯き、しばらく沈黙する。そして小さく深呼吸して顔を上げた麗奈はこう言った。
「じゃあ、今日……ウチに泊まっていかない?」
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