赤い幽霊

天西 照実

赤い幽霊


 子どもの頃から、幽霊が居るのも自然な風景に見えていた。

 そこに存在する人が、生きていようと亡くなっていようと、赤の他人の私には関係ない。

 そういう感覚だった。

 ぼやけていたり、白っぽい半透明に見えたり。

 ただ立っていたり、歩いていたり。

 人混みで擦れ違う生きた通行人たちと、何も変わらない。

 怖い思いをしたことも無いのだ。

 怨みをもった幽霊が居そうな、心霊スポットなどに行ったことも無いからかも知れないが。


 とはいえ、自分の見え方が気になり、怪談動画や見える人が出ている動画はよく見ていた。

 幽霊などではなく、普通に生きている人間が半透明に見えていたりしたら。それはそれで心配な症状だ。

 私の目や頭が、疲れているだけなのかも知れない。

 誰も、あれは幽霊だと教えてくれるわけではなかった。

 それでも明らかに何かの事故にあったような見た目や、首を吊ったと思われる容姿の人は、逆に幽霊でなかったら大事おおごとだろう。

 だから白っぽい半透明な見え方は、幽霊なのだろうと判断するようになっていった。

 幽霊に、色を感じたことはなかった。



 赤い幽霊が見えたのは、突然のことだった。

 生きている人でも、ピンクや黄緑の髪色だったり、真っ赤や真緑のコートを着て目立っていたら目を向けてしまう。

 とはいえ、他人をジロジロ見るのは失礼だ。

 相手が幽霊でも、じっくり観察することはなかった。

 しかし、珍しく赤っぽい半透明の幽霊が目にとまり、心霊特集で『赤く写る心霊写真はヤバい』と聞いたことを思い出していた。

 とうとうヤバい幽霊に出会ってしまったのか。

 そんなことを考えていたら、その幽霊と目が合ってしまったのだ。

『やぁねぇ。赤だって色々あるでしょ?』

 全体が赤く見える女性幽霊が、話しかけながら近付いて来た。

 幽霊も十人十色というか、千差万別という実感はあった。

 その女性は、目が合っただけでこちらの考えていることがわかり、会話可能なタイプの幽霊らしい。

「はい、すいません」

 つい、声に出して謝った。

 背後の青い自動販売機が、透けて紫色に見える。

 赤い半透明な姿だが、普通のおばちゃんという印象だ。

 明るい顔で、

『いいのよー』

 と、手をひらつかせている。

『信号とか踏切の赤と同じで、よくない心霊写真の赤って警戒色なのよ。私の赤は、ちょっとくすんでるって言うか、こんな色の服とかバッグとかも普通に売ってるでしょ?』

「なるほど、確かに」

 私が頷いていると突然、赤い女性幽霊は真顔になり、

『まぁ私も、警戒色になることはあるけどね』

 と、少々声を尖らせて言った。

「……」

『幽霊は生きている人よりも千差万別かもね。場所や相手によって状態が変わったり。生きている人の言葉が聞こえていたり、全く関りをもたなかったり。同じ幽霊でも色々なの。感情が色で表現される存在も居るわ。探してみて』

 もう一度笑みを見せながら、赤い女性幽霊は話した。

「……気を付けて見るようにしてみます」

 呆気にとられながら、私は答えていた。

 赤い女性幽霊は満足そうに頷くと、トコトコと足音だけを立てて、どこかへ消えて行った。



 今更ながら、高度な映像技術が見せた偽物ではなかったと思う。

 屋外だし、周りを通り過ぎる通行人たちは、赤い女性に目を向けていなかった。

 だとすれば、やっぱり幽霊なのだろう。

 私だけの妄想や幻覚でないとも言い切れないが……。

 幽霊の色。

 意識したことはなかった。色の理由もわからない。

 しかし、これからも幽霊らしき存在を見かけることはあるだろう。

 白っぽい半透明は幽霊だと思い込んでいたが、白っぽい以外に色を感じられるか。

 興味をもって見てみようと思う。



 こんなに幽霊の話を、誰かに伝えたくなったのも初めてだ。

 なので幽霊の色について、ここに記してみた。


                                了

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赤い幽霊 天西 照実 @amanishi

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