赤黒い滴り
国見 紀行
君は何色?
うちの学校の七不思議に「緑のお姉さん」というものがある。
保健室のベッドで休んでいると、カーテンの向こうから「あなたは何色?」と聞いてくるのだとか。
その問いに答えた色によって様々な方法で殺される、というものだ。
「今まで殺されなかった人はいるのかな?」
昼休み、私は原稿用紙を前にそんな質問を新聞部の部長に投げかけた。
「そりゃ、話の発端になるくらいだから、広めた人がいるだろう」
「そっか、噂の始まりがないと広まらないですもんね」
「しかも決まって被害者は女生徒なんだそうだよ。僕じゃあ取材ができないからね」
「部長はこの間の『屋上への十三段目』で頑張ってもらったところですから。行ってきますよ」
「うん。よろしく頼むよ」
新聞部は部長と私以外は専ら幽霊ぶ…… デスクワーク専門で、めったに人前には出ない。しかし腕は確かで前回の書面はかなりの好評をいただき、今回の情報の提供につながった。
とはいえ、命が関わる情報はあまりありがたくはない。
緑のおばさんとかは聞いたこともあるが、なぜ校内なのか。なぜお姉さんなのか。先生ではダメなのか?
「まあ、行ってみればわかるか」
私は保健室の扉をノックする。
しかし返事がない。
「……あれ、先生いないな。職員室かな」
試しに引き戸に手をかけると、すんなりと開いた。
「不用心だな…… まあ、いっか」
私はそっと中に入り、後手で扉を閉めた。
中は薄っすらと薬品の匂いが漂う独特な雰囲気が若干異世界感を醸し出す。嫌いではないが落ち着かない感じが「いかにも」な雰囲気を感じさせた。
「んじゃ、失礼して……」
私はふたつあるうちの窓側のベッドに乗っかり、カーテンを閉めた。
ポカポカ陽気の保健室も、カーテンで区切られた途端ひんやりとした感覚に陥る。
だけどそれは、今に限って良くない方向に向かってしまった。
「…… ちょっと布団かけよう」
薄いシーツをそっと被る。
この僅かな温もりが、お腹の満たされた私に幸せな感覚を思い出させた。
遠い何処かで鳴っているチャイムに気がつくことなく、私は眠りに落ちてしまった。
「……はっ!?」
気がつくと、周りは橙色に染まっていた。
午後の授業はおろか、放課後の部活にすら顔を出してないことに気が付いたが、スマホには何の着信もない。友達も私の事をすっかり忘れているようだ。
「むう、友達外のない奴らよ」
起き上がろうと頭を上げると、カーテンにうっすら人影が写った。
あ、先生が戻ってきたのかと思って急いで起き上がろうとしたが、唐突に人影が私のベッドの前で止まった。
「あなたは、ななな何色? ろ? お?」
背筋が凍り付いた。
しまった、部長から何が正解かを聞いておくのを忘れた!
「……!!」
そして、声が出ない。
あまりに突然の出来事に体がこわばり、布団をかぶることもそこから逃げ出すこともできない。
「なぁに、いぃぃろおおおおーーー!!」
「きゃあああああああーーーーーーーー!!」
答えないでいるとカーテンごと人影が襲い掛かってきた。布に引っかかった人影は包丁のような刃物でカーテンを引き裂き、そこから全身緑色の肌をした醜い女性が現れた。
「こいつっ!!」
「へっ、部長!?」
私の叫び声を聞いたのか、ベッドの際から部長が現れて私の布団を剥ぎ取り、その女に投げつけた。
「黄色! 黄色! キイロおおお!」
「ぶあああああぁぁぁぁ……」
部長が叫ぶと女性は顔を隠しながら一目散に逃げていった。
「部長、ありがとうございます!」
「君が無事で何よりだよ」
「ところで部長……?」
「な、なにかな」
「なんでベッドの脇から出てきたんですか?」
「助かったんだからそういう所に気が付かなくていいんじゃないかな?」
完
赤黒い滴り 国見 紀行 @nori_kunimi
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