1章11話 視えたもの
「うーん、そういえば少しこの辺で止まってお店の方見てたかも?」
「ここはいつものお散歩では通らないしね」
絵美ちゃんと絵夢ちゃんがお互いを見合わせながらそう言って、続いて僕に期待の眼差しを向けてくる。二人は本当にそっくりなのだけれど、少しだけどちらが絵美ちゃんでどちらが絵夢ちゃんなのかわかってきた。
どちらも元気なんだけど、少しだけ落ち着いて、考えたりいるのが絵美ちゃん。
それよりも少し元気で、色んなところに興味をもってキョロキョロしているのが絵夢ちゃん。
二人共笑っている顔が可愛くて、泣いているところを見るとこっちも悲しくなって。
そして、なんだか二人にぎゅっとされて、ドキドキよりもほっとして。
僕はこの能力に気づいて初めて、うっかり使っちゃったり、使わないようにしようと思うのじゃなくて、知りたいと思って集中していた。
今までは、うっかり見えてしまうことが多かったけれど、ちゃんと聞いて、探そうと思って視たら、もっとちゃんとわかるのかもしれない。
そう思った僕は、楽さんが指さしたお店に近づきながら、二人に質問した。
「トラさんが急に逃げ出しちゃった時の状況をもう少し教えてもらっても良い?」
「えっとね……あの時は確かいい匂いがしてて」
「うん、そうだった! それでこの辺で急にトラさんが立ち止まって、どうしたの? って聞いていたら走り出しちゃって……」
絵美ちゃんと絵夢ちゃんが、身振り手振りをしながらこの辺だったかなというように、お店の手前の道路を指し示す。
僕はそれを聞いて、少し何かを探るようにして、なんとなく気になるある一点でしゃがみ込んだ。
「……詩音?」
そんな僕に、楽さんが名前を呼んで、僕はそれに答えながらしゃがみ込む。
「多分、ここかもしれない……さっき、小屋に感じたのと同じような感覚が……っ?」
そして、そして、トラさんの居場所、と思いながら目を閉じて地面に触れると、さっきのトラさんの家で視たのよりもっとたくさんの強い気持ちが流れ込んできた。
動画を倍速で見ているみたいに沢山の映像が流れていく。
赤いだるま。車が沢山止まっている場所と、その前で車が通り過ぎる音。いつも通り繋がれた場所に、美味しそうな匂い。おじいさんとおばあさん。優しい時間。
でもそれ以上に強い気持ちがあって。
寂しい、寂しい。帰ってこない。寂しい。
その心は、僕の中にもあった寂しさと混ざってしまって――――。
「おい、詩音? 大丈夫か?? 詩音!?」
そして、肩を揺らされて、大きな声で名前を呼ばれて、はっと僕は戻ってきた。
ううん、ずっとここにいたんだけど、何だか戻ってきた感覚がして。
「楽、さん」
「詩音……泣いてるのか? どこか痛むか? 急に固まっちまうからお前」
そう言われて、僕は目から涙が流れ出していることにようやく気づいた。
「……あ、楽さん。ごめん、大丈夫……」
「いやいや、絶対に大丈夫じゃねぇだろ! 今のお前ちょっと危なそうだったぞ? いや、感覚は俺もわからんが、それ、本当に多用して大丈夫なもんなのか?」
「えっと…………うん、大丈夫だと、思う。ただ、これまでお母さんにも言われて、できるだけ抑えるようにしてるから、ちゃんと視ようと思って想像しながら、集中して触ったの、初めてで、びっくりした」
僕は、左手をグーパーしながら、そう一言ずつ言葉にする。
びっくりした、急に沢山の情報が入ってきて、しかも寂しさが、分かると思ってから急に僕も寂しくなって、いつだったかのお母さんとはぐれた時のもう会えないかもしれないと思ったような寂しさと同調してしまった。
落ち着け、落ち着け。と深呼吸していると、楽さんだけではなく、絵美と絵夢に茜も心配そうに近づいてくる。
それを見て、僕はちょっと反省して、でも、頑張って笑顔を作って言った。
「ごめんなさい、本当に大丈夫だから……それよりも」
「……どうだった?」「だいじょうぶ?」
僕に、絵美ちゃんと絵夢ちゃんがそうそれぞれ尋ねてくる。
でも、さっきの映像を思い出すのだけれど、分かるとは思えなかった。
「うん、心配してくれてありがとう。それでね、視えたし、きっとトラさんだったんだけど、ちょっとやっぱりわからないかも……ごめんね」
「ごめんねって、まじでお前、びくって震えて動かなくなるから、心配したんだからな……はぁ、まぁそれはそれとして、視えたってのは何が視えたんだ?」
楽さんが、少し怒ったように、でも本当にほっとしたようにして言って、そして最後に聞いてくる。
「えっとね……懐かしい気持ちが凄くて。ここと同じような匂いがしてて、そこにトラさんが繋がれて誰かを待ってたみたい。後は、赤いだるま…………あ、ちょうどこのお店にあるのとそっくりなやつ。車が走ってる道路があって、遠くに建物が沢山と山があったよ……それで、次に視えたのが庭が広い黄色い屋根のお家だった。クリーム色の車もあってね、トラさんの家なんだとおもう。でも、これじゃわからない――――」
楽さんに、僕は一生懸命見えたものを説明した。
写真とかで見せられたらいいのだけど、そんな便利なことはできないから、一つ一つ告げていく。
でも、言葉にすればするほど、それじゃわからないよなという気持ちが強くなって、僕の言葉はしょぼくれていった。
「いや、案外わかるかもしれねぇぞ。まぁ、流石に市外だったりしたらどうしようもねぇが……」
でも、なのに楽さんは凄く普通のことのようにそう告げて。
「え?」
僕は、そう、すこし間の抜けた声を上げたのだった。
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