第33話 もう一度のチャンス

☆☆☆悪あがき


札森に思いっきり断られた……行けると思ったのに……


「り、理由を教えてくれないか」


「無理なもんは無理っす……先輩と付き合う……無理無理無理っす!」


「お前俺のことかっこいいって言ってただろ。だったら付き合ってくれていいだろうが。かっこいい俺と付き合えるんだぞ」


「あーーー私。私より強い人じゃないと付き合えないんす! ごめんなさいっす!」


「いや、俺の方が強いだろ。組み手でも手加減してやってるのに簡単にのされてるし……」


それに関しては自信がある。


「あ……ほんとっす。これ使えば大抵の変な男子が下がっていったのに」


え……


「……お前、他のやつに告白されたことあるのか? その言い方だと……」


「そ、それは……確かに何回かありますっすけど、私恋愛とか分からないんすよ! いいじゃないっすか。私が他の男子に告白されるのが悪いんすか!」


やっぱこいつ可愛いもんな……いつも笑顔だし……他に好きな奴がいるのか……


「嫌だよ。好きな奴が他の男子に告白されてるのなんて……良かった。京都より強い奴いなくて……だから、付き合おう。京都! 俺京都より強いぞ!」


「無理無理っす!」


「なんでさ!」


「そ、それは~最強の人じゃないと駄目っすから。私」


「なんだ? MMA上がれってか? いいぞ、全員のしてやる。札森が最強と認めてくれれば付き合ってくれるんだな?」


生憎身体は訛っちゃいないし、プロボクサーとかに喧嘩売れば一気に……俺の知名度は……暴力は好きじゃないが、付き合うためだったら……


「私の中で最強と思ってるのは虎徹さんっすから! ほ~ら、せ、先輩って、虎徹さんに勝ったことなくて苦手っすよね(これだけ言えば、先輩も諦めるっす……)」


言われた通り俺は一度もクソ親父に勝ったことはない。それは俺が嫌々親父と戦っていたからだ。


あくまで自己防衛で引き分けに持ち越している。何回かコテンパンにされたが……


確かにクソ親父は怪物みたいに強い。俺が本気で殴っても死なないんだもん。


だけど、京都と付き合うためなら……俺は……


「……もし、倒したら。京都は付き合ってくれるんだな」


「はいっす。どうせセンパイじゃ勝てないっすけどね、最初から諦めた方がいい――」


「――分かった。札森。俺はクソ親父を倒して、お前と付き合うぞ……」


「え……危険っすよ殺されるっすよ」


「……やる気にさせたのは京都だ。親父を倒せば、京都は俺が本気ってこと認めてくれるだろ」


覚悟は決めた。あとはクソ親父を倒すだけ……うぅ……想像しただけでも、かなり難しいな……


だけど今のままでは実力の差は埋まらない。それは俺が一番よく理解している。


「そ、そこまでして、私なんかと付き合いたいんすか……あり得ないっすよ! せんぱい……」


「京都……滅茶苦茶可愛いから……」


「なんすかそれーほんとに可愛いって思ってるんすか! あーもう頭撫でないでっす! ふしゃーーー!」


頭を撫でる。京都ちっちゃくてかわいい……可愛すぎる。そっと抱き寄せる。力強くではなくなるべく優しく抱きしめた。


「せんぱい。本気で私のこと好きなんすね……」


抱き締めると京都の頭が丁度俺の胸に来る位置。


「何度も言ってるだろ。好きだって……京都のことこうして抱き締めてると胸の鼓動がな……ほら」


心拍数が上がっている。これは熊と対峙して生還した時と何ら変わらない。


「あ……ほんとっす、せんぱいの鼓動早くなってる……せんぱい……せんぱい……私も……先輩が……あっ、な、何でもないっす!」


京都は何かを言おうとしたが……言い淀んだ。


やがて遊園地は閉園の時間を迎えた。


俺達は特に会話のないまま電車に乗り帰っていく。


……俺は京都に気持ちを伝えた。京都は一度は断ったが条件付きで承諾してくれた。


俺が最強と思う親父を倒すこと……相当きつい戦いだ。


だけど、俺は逃げない。もう……京都と付き合うためなら俺はなんだってやってやる!

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