第29話 わくわくの遊園地

〇〇〇電車内で


……どうしようどうしようどうしようどうしよう……


先輩が私のこと可愛いって言ってくれたっす……嬉しい……すっごく嬉しい……


例えお世辞だって分かっても、なんだろう。すっごく嬉しいっす……


それにパンツを見られたっす……滅茶苦茶恥ずかしかったっす……


私の下着でも先輩は見たいって思ってるんすかね……


車内で隣に座っている先輩の身体は凄く大きくて、頼もしいっす。


あの蹴りは割と殺す気で放ったはずなのに、それでも私の下着見たさに避けなかったって……そんなに、私の下着見たかったんすかね……


嬉しいような、恥ずかしいような……


そもそも、先輩は私のことどう思ってるんすかね……先輩。先輩……


今日は遊園地。私より先輩の楽しんでるところを見たいはずっすのに、どうしてっすかね……なんでこんなに心臓がどきどきしてるんすか……


先輩の初めての遊園地。最高の思い出にしなくちゃいけないっすのに……


こんな恥ずかしい恰好も可愛いって言ってくれて、先輩ほんと優しいような、意地悪なような……


ほんと、先輩なんなんすか……意地悪……


「そういえば、その服ってどうしたんだ?」


「えっと、宮藤さんが選んでくれた服っす。だから、私のセンスじゃないっすよ」


「お前宮藤さんと仲いいな」


「え、先輩知ってるんすか宮藤さん」


「何回か呼び出されたからな」


え……宮藤さんって、もしかして、先輩のこと……?


もしかして、宮藤さんが言っていた。先輩に恋人ができた話って……


宮藤さんと先輩が付き合うとかそういうことなんすか……!?


「ん? どうかしたんだ札森暗い顔してるが……」


「え、いやなんでもないっす……」


「さっきのちょっかいかけたことなら謝るよ、だから元気出せよ。遊園地もうそろそろつくんだろ」


再び頭を撫でられる。すっごく気持ちが良いっす。大きくて、力強くて……


ほんと胸がドキドキするっす……だけど、このままでは本当におかしくなってしまいそうなので、撫でられる手を払いのけて……


「あーそうっす! 遊園地っす。先輩は絶叫マシン平気っすか? ジェットコースターとかっす。ガタガタゴトンっす!」


「その、絶叫マシンが俺にはよく分からない。ただ、高いところから落ちるだけなら、滝とかで経験してるし。多分平気だと思うけど」


流石センパイっす……


「あ、私お化け屋敷は絶対無理っすからね!」


「へぇ、お化け屋敷なんてものもあるのか……まぁ、札森に無理強いはさせないよ。そもそも俺楽しみ方すら分からないから……」


私と先輩の遊びと言えば、どれもお金のかからない物だったっす。小学生の頃はよく組み手をしたり、虫を捕まえたりとか、走り回ったりとか色々っす。


願うなら、ずっと先輩とこうしていたいっす。隣に居たい……


だけど、それは果たして宮藤さんの言う恋ではないと思うっす。


「その、俺マジで遊園地分からないから札森に任せることになるけどいいか?」


「それは任せるっす。一日でアトラクション全部乗る勢いで頑張るっすよ!」


「ありがとう……」


「そろそろ、目的地に着きそうだな」


「はいっす!」


こうして先輩との遊園地デートが始まるっす!


☆☆☆


電車を降りると目的の遊園地まですぐそこだ。夏休み本番もあってか大勢の人で賑わっていた。


「凄い人混みだな……って、札森?」


気が付いたら札森は人混みの中に流されていった。


「ぱーい! せんぱーい!」


札森の声が大きいから位置は分かるけど、流れに逆らっていかなければならない……だけど、無理矢理彼女元へ行けば俺とぶつかった人が怪我をするだろう。


「センパーイ……せんぱい……」


「……!」


札森が俺と離れた時。少しだけ、暗い顔をした。咄嗟に体が動いていた。


流れに逆らわず、力を抜いて……時間にして二秒……誰ともぶつからずに札森の手を掴んだ。


「せ、先輩!? さっき遠くに居ましたっすよね? それなのに一瞬で……それに手……」


「人多いから、離れないようにしないと……手繋いでいいか?」


「そ、それはいいんすけど……先輩。ちょっと握る力強いっす……私じゃなかったら手折れてますっすよ……」


咄嗟に繋いだからだろうか、すぐに力を緩める。


「わ、悪い……怪我はないか?」


「いえ、全然平気っす……少し嬉しかったというか……いや、今のなしっす!」


なんで嬉しかったんだ?


「と、とりあえず、こ、このまま、手繋いで遊園地に入るっす。先輩!」


「分かった」


札森は俺の手を握る……うわぁ……札森の手ってこんな小さいんだな。


普段組み合ってる時とかじゃ全然想像できない。


ちゃんと、札森も……女子なんだな……


そのまま俺達は一緒に遊園地の入場口まで足を運んだ。

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