第28話 遊園地当日

☆☆☆駅前で


夏休みに入り修行の日々は続き、やがてようやく札森と遊園地へ行く日になった。


なぜか、鏡を見て髪形を気にする自分がいた。今日はファッション誌で読んで勉強した格好をしている。


でも相手は札森だぞ……なぜそんな身だしなみに気を使う必要があるんだろう。


どうせ札森はいつも通りの私服のはずだ。スポブラのTシャツに半ズボン。男子と何ら変わらない。


これじゃ、俺だけ気張ってるみたいで恥ずかしくなる。


だけど今更髪形を崩す気にもならないのでそのまま待ち合わせの場所まで行こう。


自転車で行こうと提案したが、札森は電車が良いらしいので近場の駅前に集合する。


まだ札森はいないか……


真夏の直射日光は暑い。だけど、この程度の暑さに俺がやられることはない。


…………


だから何時間でも待つことはできるが……しかし、札森来ないな。寝坊しているのか?


「先輩……先輩……」


札森の声がする。遅れてやってきたのか……いや、どこにもいないぞ……?


幻聴だとでも言うのだろうか? 日射病に俺がやられた……? ありえないぞ。


だったらこの声はどこから来たんだ。目の前には大きな麦わら帽子を被ったひらひらなワンピースを着た女子がいるけど……札森がそんな格好するわけないしな。


「あ、あの……!」


すると、ワンピースの女子が俺に声をかけて来た……まさかこれは、逆ナンというやつなのだろうか!?


「えっと、君。俺に何か用があるの? ごめん。俺もう既に予定があって……」


「……え?」


ワンピースの女子が麦わら帽子を取ると……


「せんぱい……わ、私っすよ……」


札森が……こんな格好をしているのか……?


「え……」


真っ白なひらひらのワンピース。髪も普段は寝ぐせか動き回って跳ねてるのに、綺麗なストレート。


靴もスニーカーではなく、サンダルだ……


こいつ顔は悪くないから、なんていうか……そういう女子っぽい恰好されると……


「せ、せんぱい。な、なんか言ってくださいっすよ! 無反応が一番きついっすから……うぅぅぅ……やっぱ私じゃ似合わないっすよね……」


「い、いや、似合ってないことはない。ただ別人かと思っただけだ……ぞ」


いや、正直に言おう。札森……滅茶苦茶可愛いんだけど……


「べ、別人って!? ただ服変えただけじゃないっすか! 酷いっすよ! 私は私っす……」


「いや、別に貶してるとかじゃなくて……に、似合ってるから……」


「……はははははい!? なんすかそれ!? に、似合ってるって、私が一番思って無い事っすよ! せんぱいここは笑うところっすよ!!! お前には似合わねえって! 笑ってくださいっすよぉぉ」


前スカート履いた時俺が爆笑したのまだ根に持ってるのか……だけど、あの時は札森のこと男だと思ってたから笑っただけであって、


今はしっかりと札森が女子であると理解していたため、不意を突かれた。


「……お前にだけは死んでも言いたくなかったけど……かっかわいいぞ……」


「……はぁぁ!?!??! かわわわわ……!? せ、先輩何言ってんすか!? 私全然かわいくないっすよ! ほら! よく顔見てくださいっす!」


照れてる札森が凄く可愛い。なんだこいつこんなかわいかったのか……?


「二度は言わねえよ……そもそも、なんでそんな服着てくるんだよクソ……」


「なんで先輩が怒ってんすか……」


「お前を可愛く思ってることに一番腹立ってんのはこっちなんだよ……くそぉぉ!」


「だ、だからそういうこと言わないでくださいっすよ! 私のことからかってんすか! 先輩の……女たらし!」


こいつ、もしかして可愛いって言い続けたら、簡単に落ちるんじゃないか? それぐらいちょろいぞこいつ……


ちょっと気になったのでからかってみよう。


「いや、札森は可愛いぞ、こうやって、ワンピース着てる姿なんか想像できなかったのもある。滅茶苦茶可愛い。まじで、マジ可愛いから、マジで、かわいい」


「……ぽわぁ……」


顔を真っ赤にして思考がショートしている。


「札森、可愛いな~すっごく可愛いぞ、うん。かわいい。可愛いぞ」


「うぅぅぅぅ……もうやめてくださいっす! それ以上言わないでくださいっす! 恥ずかしいっす!」


顔を両手で抑えて足をバタバタしている。これぐらいにしとくか……


「……お前、滅茶苦茶チョロいな。こんなんじゃナンパに引っかかったら終わるぞ」


「……はい?」


その瞬間札森の顔が一瞬で変わる。これは憎しみの表情だ。


「歯を食いしばるっす……! おらぁあ!」


死角からの蹴り……それよりも、そのスカートで足を上げたら……


頭に凄い振動が走る。結構脳を揺らす蹴りだな……俺は避けない。避けたら見えないだろう。


足の裏から続く脚線美の最終到達点にある物を見逃さない。


「……水色のフリルだと……!?」


色気のない下着じゃなかった。普通にエッチだな……札森もこんな下着履いてるのか……


「っはぁ!?!?!?」


札森はすぐにスカートを押さえる。


「な、なななんで見たんすか!? 先輩。割と一発でKOできる勢いで蹴っ飛ばしたっすのに……そもそも私の下着なんて見たってなんも需要ないっすのに!!!」


俺が札森の蹴りでKOされるわけがないだろう。


「女の子の下着を見たいってのは男のサガだぞ。札森でも可だ。」


「そ、そんな私の下着が!??! せんぱいそんな変態だったんすか?!」


「ははは! 札森。お前テンパると面白いな……もっとこうしたくなる」


そして頭を撫でる。


「ほわわ……頭撫でて誤魔化さないでっす! このこのこのこのっす~!」


両手を回しているが頭を撫でている俺には届かない。かわいい。


「いいから行くぞ……そろそろ電車が来る時間だ」


「あ、待つっす! この格好歩きづらいんすよ~~~! せんぱ~い!」


……しかし、札森をこんなかわいかったんだな……内心心臓がバクバクしていた。


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