第23話 悩み相談
☆☆☆揺れる気持ち
札森と向かい合って相談を聞くことになった。
「そのなんすけど……最近先輩と会うと胸が締め付けられるようにずきずきするんすよ……」
……まさか。こいつ……!?
「……肋骨とか折れてないか? しっかり受け身取れるよう落としたつもりだったが……大丈夫か? 病院に行った方が良いぞ!」
「いえ、受け身はしっかり取ったっす。怪我じゃないからなんか変なんすよ。胸が苦しいんっす。ちょっとせんぱい頭撫でてほしいっす」
「分かった」
すると、札森の頭を撫でる。髪サラサラしてるな……撫でたのなんていつぶりだろうか……
「ぽわあぁ……も、もういいっす! なんか変っすやっぱ!」
すると、札森の顔が真っ赤になっている。まるでチョークスリーパーを掛けられているように……
「大丈夫か札森! 顔真っ赤だぞ! 絞められたか?」
「やっぱセンパイっす……先輩がなんかすると、私変になるっす……その、ロッカーで抱き締めて貰った時から変なんすよ!」
「俺が抱き締めたせいで骨が折れたとかか? だとしたら素直に謝るが……」
まさか、そんなに俺の力が強まっているということか……?
「だーかーらー怪我はないんす。なんすかねこの胸の高鳴り」
「俺と言う好敵手に巡り合えたとかそんな感じか? いや、もう、札森が俺に勝つことはないと思うぞ」
「そうっすよね……私でも先輩に力で勝てないことは分かるっす……じゃあなんなんすかこれ……先輩の顔ずっと見てられないっす……」
「俺の顔そんなに怖いか……?」
札森に言われるのは普通に落ち込むぞ。
「そうじゃないんすよ。かっこいいっすよ。それに先輩の顔不快な感じはしないっすから……う~ん。ほんとうになんなんすかこれ」
「いや、俺に言われても……基本体の不調は殴って治すけど……札森はそういうわけにいかないし……」
本当に分からない……
「もっかい、せんぱい頭撫でてくださいっす……」
「分かった……ほら」
「うぅぅ……」
するとみるみる札森の顔が赤くなった。
「頸動脈でも絞められてるか? 顔凄く赤いぞ」
俺が頭を撫でると頸動脈まで締められる力を得たというのか……?
「やっぱ先輩の近くにいると胸が変っす……うぅぅ……先輩のせいっす責任取るっす……」
本当に調子悪そうだな……どうしたものか……
「なんかしてほしいことあるか?」
「……先輩どうしたんすか、凄く優しいっすけど」
俺が優しいことに驚くなよ……
「流石に調子悪いなら、優しくもなるだろ。早く言えよ。あと五秒で締め切る」
「あーちょっと待つっす……せんぱい……じゃあ」
すると、札森は俺に抱き着いてくる。
「ロッカーの中に入った時。再現欲しいっす……」
そうやあこいつあの時抱き着いて離してこなかったな。
「分かった。えっと……俺がお前を守る。なんか守るから。とにかく守るよ。うん。守る」
確かそんなこと言ってたよな。とりあえず前の様に札森を抱きしめる。うん。やっぱ体小さいな札森。このままぶん投げられそうだ。
「うぅうぅ……せんぱい……なんか適当じゃないすか? そもそも何考えていってるんすか?」
「いや、この態勢ベリートゥベリーできるなって」
「先輩っぽいっす……でもなんか違うっすよ……」
そのまま少しの間札森を抱きしめた。ぶむ、これが女子の感覚か……
いや、こいつ女子なんだよな。今俺は女子を抱きしめている……
でも、札森なんだよな……
う~ん。こいつを女子と認識できるかというとこが問題である。
「せんぱい……せんぱい」
う~ん……う~ん……確かに札森の顔は女っぽくなった。幼い頃は正直男子だと思って接触していたので、女子と気付いた時は目ん玉が飛び出た。
女子と気付いてからも男友達のような距離感だったので、今の様にハグをするとどうしても調子が狂う……
だけど……今この瞬間。抱きしめている札森を見る。
「せんぱい……?」
俺を呼ぶ声。札森は顔を上げ、目と目が合う。赤い頬。甘い声……胸はない。
絶対に口には出さない。だけど……
今日初めて……今までで生きてきた初めてだ。
札森のことを『かわいい』と思ってしまった……
表情には出さない。だけど、こいつも女子なんだと言う実感が得られると……不意にこうして抱き締めていることが恥ずかしくなってきた。
「あ、せんぱい。もう終わりなんすか……?」
「ま、まぁ、問題は解決しないかもしれないけど、勉強教えた方が良いだろう。期末落として夏休み補習になるの嫌だろ?」
「はいっす!」
話題を逸らし勉強の時間にする。
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