第22話 二人の距離とテスト期間
〇〇〇札森の悩み
私は、せんぱいと夜の学校に忍び込んだ日から調子がおかしい。なんだろう。先輩に抱きしめられた時。
なんか変な気分になった。あの時の先輩は凄く優しくて、力強くて、頼りになって……
「札森さ~ん。札森さ~ん」
「はいっす……」
宮藤さんが話を掛けてくる。
「最近なんか変だけど、何か困ってることとかあるの?」
「いや、そういうわけじゃないんすけど……なんか最近調子が変で……なんなんすかね……」
とりあえず宮藤さんに相談してみるっす。
「風邪だったりするのかな?」
「いいえ、身体の丈夫さには自信があるっす!」
「じゃあ、詳しく話してみてよ。私に」
「はいっす……そのっすね」
先輩に抱きしめてもらったことを宮藤さんに語ったっす。
「なんか、胸が変なんすよね……あ、私ぺったんこで胸ないっすけど……なんというか、先輩の顔見てると、胸が苦しくなって。いいや、小さいとかそういう話じゃなくて……なんかせんぱい凄くかっこよく見えて……あ、前からかっこよかったんすけどなんか違うんす……『憧れ』って感じじゃなくて……」
「あ……あぁぁぁ……あぁぁぁ……私としたことが……まさかこんなことになるなんて……あわわわわ……」
すると、宮藤さんが動揺している。一体何が……?
「え、何か私変なこと言ったっすか? せんぱい見てると変な気持ちになるってだけなんすよ……その肩固めされたみたいな胸の圧迫感が……」
「ぁぁぁあ……私のせいだ。私が変なことを頼まなければ……札森さんは……札森さんはぁぁぁ!」
「宮藤さん落ち着くっす! どうしたんすか!」
その後も宮藤さんは悶え続けた。
☆☆☆テスト勉強
学校の一件以来。札森が絡んでこなくなった。と言うのも、俺自身なんて声を掛けたらいいか分からない。
だけど、そんな悩みよりも目の前の期末テストが大事だ。今俺は家の道場にいる。
成績は常に上位をキープしている。と言うのも独自の勉強法があるのでそれをやっているのだが……一種のカンニング方とも呼んでいる。
それは……
家には先代が作ったよく分からない人型自立稼働マシンがある。これは代々受け継がれる修行用のカラクリマシンでぜんまいをひねると勝手に攻撃が飛んでくるのだが……
こいつにテスト範囲の問題と答えを書くことによって、実戦とテスト勉強が成立する。
人間は一体何で物事を覚えるのか……? それは『痛み』である。
俺はテスト問題を全てこいつの攻撃を受けることによって痛みで暗記した。
その痛みと共に答えが身体に刻み込まれているためカンニングと言っても良いだろう。
数学に関しては、その答えだけ暗記しているので、途中の計算式などがなくて減点されている。
ちなみにこの勉強法は札森にも教えた。そのおかげで受験もどうにかなったのだが……
そろそろ俺に教えを乞わないと、期末テスト落とす時期なのだけど……
果たして札森は来るのだろうか……
攻撃を全て受け止めながら問題を暗記している。
「せんぱい……勉強教えてほしいっす」
すると道着に袖を通した札森が道場に入ってきた。やはり、いつもより元気がない。
「どうした。札森。最近元気ないぞ」
「えっと、それは……っすね」
もじもじしている。
「お前が元気ないと、こっちの調子が狂うんだよ。勉強は教えるけど、ここは道場だ。組手でもするか」
「……! はいっす! え、せんぱいと組手できるんすか!?」
☆☆☆組手
すると、札森は笑った。と言っても、俺はあまり攻撃はしない。流石に怪我させるわけにはいかないからな。あくまでサンドバッグになるだけだ。
「何か悩み事があるんだろ。だったら俺にぶつけて来い」
「小学生頃以来っすよ……先輩と組手するの! 嬉しいっす!」
そのまま俺と札森は向かい合う。
「行くっすよ! うらぁぁ!」
鋭い蹴りが飛んでくるが受け止めた。小学生の頃より威力が大分増している。さらに連撃。連撃が飛んでくる。
「貰ったっす! うらぁぁぁ!」
速いな! 鍛錬は欠かしていない。だが、少し動きに迷いがあるように見える。確かに俺の方が力が数倍上のことは、本人も直感的に分かっているだろう。
なら関節技をしてきてもいいのではないだろうか。組み合うのを恐れている?
「……!」
「ひゃぁあ!」
飛んできた腕を掴み背負い投げる。(もちろん加減して)
「受け身はちゃんと取れてるようだな。どうした、以前のお前ならもっと積極的に攻撃をしてきたろ。攻撃に迷いが見えるぞ」
「うぅぅぅ……うるさいっす! うらぁぁ!」
寝っ転がった状態から両足で俺の腹を持ち上げた。これは……腕十字に入るな。
いいか、引っかかってやろう。
「おらぁっす! 腕十字っす!」
うん。しっかりと靭帯が伸びてるな。だが、このままでは本当に腕が死ぬ可能性があるのですぐに切り返す。
「ひゃぁぁう!」
腕で札森を力尽くで持ち上げて、解除した。そのまま軽めの大外刈りで押し倒す。(もちろんダメージは全部自分に行くように調整した)
「うぅぅ……私の負けっす……」
「どうだ。久々に組手をしてみた感想は」
「……先輩強すぎっす……何もできないじゃないっすか……どんだけ最強なんすか……それに相当手加減してるっすよね……」
そのまま札森を軽く持ち上げる。
「そもそも、男女じゃもう、体格差出てきて勝てないだろう。これで札森ももっと遊びたいとか――うご!」
「えいっす!」
すると、札森が俺に抱き着いてく……いや、これフロントチョークだ。
頸動脈が締められて意識が……落ちないんだけど。
「なぁ、それで札森の悩みは解消されたのか?」
「それなんすけど……」
「話してみろ。お前が悩んでるとこ見たくないから」
「はいっす」
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