第21話 肝試し

☆☆☆二人の学校


「せんぱい……せんぱい……ほ、本当に幽霊とかでないっすよね」


それで、札森は俺の腕にがっしりしがみついてきて離さない。


「だからそれを調べるために来てるんだろうが、てか、お前くっつきすぎじゃないか?」


「いいじゃないすか……」


というか、こんなにくっつかれると……胸が……胸? 柔らかくない?


「そのさ、胸が当たってるんだよいや……ほんと胸ないなお前……っぐ!」


全力のカーフキックが飛んでくる。


「酷いっすよ! 私にだって胸ぐらい――ががががが!」


こいつ、校舎で大声上げたら警備員来るだろうが……無理矢理口を押える。


「誰かいるのかーーー! こっちの方から声が……」


しまった警備員が来た……! 速攻で俺達教室のロッカーに入り込む。最悪見つかっても一瞬で意識を奪うことはできる。


暗い場所なのもあって俺であるといる心配もない。だけどなるべく相手を傷つける方法は避けたいので隠れることにした。


「(声にならない声)」


「静かにしろ。警備員に見つかるぞ……! マジで、って札森……?」


すると、札森は落ち着いたのか俺に抱き着いてくる。


「暗いとこ……怖いっす。先輩いないと……無理っす……死ぬっす」


札森は泣きそうな顔で震えていた。じゃあなんで、ついて来たんだよ。


というかロッカー二人ってすげえ狭いし距離近い。しかも、札森の胸が……あれ、柔らかくない……嬉しくないなぁ……もしこいつの胸が大きければ少しはそういう気になったかもしれないが……


だけど、このまま、震えていたら入ってきた警備員に気付かれそうだ。


だったら気休め程度だけど……


「せん……ぱい……?」


仕方なくと、札森を抱きしめる。


「平気だ。もし、幽霊が出ても俺が守るから。だから安心しろ。俺が強いことはお前が良く知ってるだろ。だから大丈夫だ」


「はい……そうっすね。先輩は最強っすから」


すると、札森は落ち着いたらしい。警備員が教室に入って見回りをしている。その間俺は札森のことを抱きしめ続けた。


気まずい……今俺。一応女子を抱きしめてるんだよな。一応札森なんだけど……


「気のせいか……確か女性の叫び声が聞こえた気がしたが……怖いなぁ……夜の学校は出るって言うしなぁ……」


警備員は通り過ぎていった。しかし水の音はしてなかったな。今回通ったのは普通の警備員だったと……


「せんぱい……もう大丈夫っす……」


「そ、そうだな……」


そのまま俺達はロッカーから出ていく。少し気まずかった。仕方ないとはいえ札森のことを抱きしめる形となってしまった。


「せんぱい……」


「とにかく。もう学校の中なんだから何かあっても大きな声を出すな。しがみついてていいから」


「はいっす……」


その後俺達はこっそりと夜の学校を回る。特に水の音など聞こえることなく、警備員にも見つかっていない。


十分ほど歩いた時に事だった。抱き着いている札森が口を開く。


「せんぱい。トイレ行きたいっす……」


「はい?」


☆☆☆トイレ


「うん。じゃ行ってくればいいだろう。すぐそこに」


「……一緒に来てほしいっす」


「……はい?」


一緒に来てって連れションってことか? いやそれをお前が言うか? いくら怖いからってトイレに一緒に行くのはどうかと思う。


「せ、せんぱいもトイレ行きたいっすよね、ほら!」


別に尿意が押し寄せているわけではない。逆に札森は足をぶるぶるさせてる。


「いや全然……」


「……結構やばいんすけど……ずっと我慢してて……」


「いや、女子トイレ入るのは普通に良くないだろう。ほ、ほら、もし女の子いたら怖がらせちゃうし」


「こんな時間に女子トイレ利用しているほうがおかしいっすよ! それに女子トイレに入れるチャンスっすよ」


「いや、入るのは恥ずかしいから……」


「じゃあ私が男子トイレ入るっす。それなら文句ないっすよね。限界なんすよほんと……」


ここで漏らされてもしょうがないしな。でも、こいつ男子トイレ入るの躊躇いないのか?


「分かった」


そのまま、男子トイレへ向かう。個室に入ろうとしても札森は離れない。


「おい、俺外で待ってるから。早くしてこいよ」


「……個室とか怖いっす……付いてきてくださいっす……」


はぁぁぁぁぁぁ!? こいつ何言ってるか分かってんのか!?


「せんぱい……せんぱい……」


今にも漏らしそうな札森。内股になっているし……


「さ、最悪。先輩もトイレすればいいじゃないっすか! 足開くっすから! 私が用を足している間に先輩も用を足せば御相子っす! ダブルウォータースライダーの完成っす!」


小学生レベルの下ネタについ吹き出してしまう。


「っぶは……そういう問題じゃないだろ……」


「うぅぅぅ……ほんともう限界なんすよ。うぅぅぅ……!」


俺を個室へ連れ込む。ここで漏らされても困るし……


そのまま札森はパンツとスパッツを脱いで台座に座った。普通に俺から見えてるし、隠せよ……全く色気のない下着。色気のない身体。顔は……まぁ、悪くはないのだけど。


今、札森は何も履いてない……そして……


「ひゃぱ~~~~すっきりしたっす~~~~~開放的っす~」


まぁ、そのなんていうか。見ないようにしていたが聞こえていた。俺が恥ずかしかった。こいつ羞恥心ないのだろうか……


というか、やっぱり、札森って女子なんだよなぁ……あぁ調子が狂う!


「と、とりあえず次行くぞ」


「は、はいっす……」


しかし、濡れた警備員はこの後も見つかることはなく。札森を家に送り届けて解散となった。


その時札森との会話は一切なく。気まずい空気が続いた……

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