第15話 失恋

☆☆☆本当の愛とは


俺は札森と村を離れ一緒に山道を下りていく、あらかじめ話し合っていた鳳さん達と合流した。


「長田さん……大丈夫でしたか? 結構血だらけですけど」


「あぁ、これなら大したことはないです。全て終わりましたから。ヤバスギ様の祟りも俺が止めました。それと村人との話をつけてきました。これで繭浦さんは自由の身ですよ」


「え、え、え、え! あー飛び込んだ二人じゃないすか! しかも一人凄く綺麗な女性の人だったっすよね! 無傷って凄いっすね~~~流石訓練受けてるだけあるっす~~~」


そして事情を何一つ知らない札森は、相変わらず空気を読んでいない。


「ありがとうございます……長田さん」


「これで、貴方は本当の意味で外に出られるんです……外の世界。俺から聞くのではなく。自分の目で知れるんですから」


「……長田さん……ありがとうございますぅ……」


っふ、繭浦さんは俺に感謝をしている。こういうのをつり橋効果と言うんだ。


きっと今頃俺にメロメロなはずだ。ここまでお膳立てしたんだ。


『長田さん。素敵かっこいい……結婚を前提にお付き合いしてください……イケメン! 素敵! 最強!』


みたいなこと言われるはず……


ふははは……今からにやけ顔が止まらないぞ……


「……せんぱい? なんでそんな笑いそうになってるんすか?」


「俺の計画があまりに完璧すぎてな……何々。札森には関係ない事さ」


「長田君もありがとう……これで私達は漸く結婚できそうだよ。ルミカ……」


「宗谷さん! 大好き!」


「……え」


え……


すると、鳳と繭浦は抱きしめあう。そして幸せそうに笑い合っていた。


え……


「ありがとうございます! 私。宗谷さんと結婚するんです。式にはぜひ出席してほしいです! 本当に長田さんがいなかったら私。未来を諦めてしまいそうで……なんてお礼をしたらいいのか……」


素直に感謝され続ける。いや……え、そうじゃない……え……


「あ、あはは。お礼なんていいですよ。あ、あはは……それは凄く良かったです。はい。どうぞお幸せに……あはは~~~」


そこからのことはあまり覚えていない。


鳳助けない方が良かったじゃん……はぁ……え、えぇ……


俺何のためにあんな頑張ったんだよ……これじゃあ、二人の結婚の手助けしただけじゃん……


その後一生イチャイチャしている新婚の二人とは別れた。そして俺の手元には何も残らなかった……


☆☆☆事の顛末


「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


最悪な気分のまま下山を終え俺は札森に散々笑われ続ける。


「あはははは! せんぱい分かっちゃいましたっすよ! もしかして、あの人助けたのって、モテるためっすよね~~がははは! 結婚前提に付き合ってる人。口説こうとするとか馬鹿なんすか~がははは!」


「い、いや、これは別に動画のためだしーそうだよ、これは超大作だから! 『虚闇村の祟り』で全国上映できるよ! そうすれば本来の目的の金が稼げる……そうだ。俺はそのため動画のために……人気配信者になるために!」


「あ~それなんすけど……実はもうスマホの充電切れてたんで一切撮影してないっすよ。そもそも、ずっと動画回すなんて無理じゃないっすか……」


「……え? じゃあ、俺本当に何のために動画回してたの……」


「まぁまぁいいじゃないっすか、二人のこと助けられたし! センパイ。ヒーローみたいでかっこよかったっすよ!」


「いや、俺正義の味方になりたいわけじゃないから……俺はただモテたいだけなんだよ! くそぉ……ここまでしてもモテないってどういうことなんだよ!」


俺はその場でひざまずく。


「話変わるんすけど、せんぱい。猟銃撃たれた瞬間に回避して良く間に合いましたよね。すごいっすね」


「いや、それに関してはあの人に感謝しないといけないな。初見だったら多分殺気にすら気付かなかった」


「と言いますと?」


そう、あの時感じた銃口をこちらに向けられる感覚。それはあのFPSをやって身に着いたものだった。


それも酷く恐ろしい怪物のような相手。クロスローズだ。


「クロスローズと戦ってなければ俺は多分避けられなかった。あの猟銃だってクロスローズが繰り出したハメ技の数々に比べたら百倍マシだ。ほんとにひどかったんだぞ! あのクソ配信者……でも、感謝しないといけないのは確かだ。スマホ充電出来たら高評価押しとけ」


「はいっす! せんぱ~い!」


こうして俺達の無駄すぎる山登りは終わる。結局配信も諦めたのだった……


まだまだ俺のモテ男への道は遠い……


配信者編完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る