第13話 悲劇を背負った少女
☆☆☆生け贄の少女
狂った村の生け贄として生まれた女性。繭浦ルミカ。
彼女は翌日行われるヤバスギ様への儀式によって滝から突き落とされるらしい。
繭浦さんの華奢な身体では滝から落とされれば確実に死ぬ。そもそも上がってこれないだろう。
それが、虚闇村で毎度行われてきた儀式とのことだ。何人が犠牲になったんだろうか……
「……だから、私の命はもう明日までなんです。今日過ごす夜が、最後の夜になるわけです……私はこの村から出たことがありません……だから、最期にあなたの話を聞かせてほしいです。外の世界のことを……」
その瞳はまるで生きたいと語るように、夢があるような顔をしていた。
彼女には生への未練がある。それは顔を見ればわかる。しかし、顔可愛いな繭浦さん。
「最後なんてあるわけないですよ。繭浦さん」
だからこそ……俺は、彼女を助けてその恩恵でモテたいと考えた。
世の中にはつり橋効果と言う、モテ方がある。彼女のピンチを救うことが出来たらそれはもう……モテるだろう。感謝されるし……
「え……」
「明日亡くなる人が、そんな顔するわけないんです。死ぬから外の世界を知りたいんじゃありません。生きたいから、外を知りたい……違いますか?」
「……でも、私にはどうすることもできません。親に言われたことは絶対です……そうしなければ、ヤバスギ様の祟りでこの村に下ってしまいます。良くしてくれたおじいちゃんやおばあちゃんも……皆死んでしまいますから……」
「子は親の道具じゃないんですから、それに、祟りなんて眉唾ですよ。俺がそれを証明してみます。明日。俺を信じて滝に飛び込んでみてください」
「え……待ってください長田さん」
その後俺は一睡もせずに彼女の儀式が始まるまで待ち続けた。
△△△死の儀式
翌日。繭浦ルミカは当初の目的通り、村の儀式の生け贄となっていた。
白装束で縄を縛られ、村人たちに山にある断崖絶壁期の滝へと連れていかれた。
「うひょ~~~これマジやばいっすね。どうやって上がってくるんすかね……先輩……あれ、先輩いなっす。どこ行ったんすかせんぱい~~」
「村の発展を願って! さぁ、飛び込むのです! マユラ様!」
結局。一晩待っても天鶴は助けに来なかった。一瞬でも信じた繭浦は希望を憎んだ。
村から一歩も出てこなかった繭浦は、『外の世界を知りたい』そんな願いを当然描いていた。だけどもう、この滝に飛び込んでしまえばそれを考えることすら終わってしまう。
「……ウソツキ」
そう、繭浦は呟いた。
そして、札森はその様子をこっそりとスマホで撮影していた。
そんな時だった。
「待ってくれ! もういい。私が犠牲になる。だから彼女だけは! 彼女を滝に落とすことだけはやめてくれ!」
同じく縄で縛られた傷だらけの鳳が大きな声を出して滝に向かっていく。
「貴方が落ちたところでヤバスギ様の供物にはなりません。ですが、口封じは必要です。先にあなたが落ちてしまえば全て解決でしょう。鳳。あなたはこの村に必要ありません」
それだけ言い残し、鳳は滝へ突き落された。
「うわぁぁぁああああああああ!」
「鳳さん!」
「次はあなたの番ですマユラ様。これでこの村は安泰です……」
「(そう。私の人生は結局何も変わらない。どうあがいても、なにをしても……結局ここで終わってしまう。終わりなんだ。夢を見ることも、希望を見ることも赦されない。ただ生まれてヤバスギ様に命を捧げるためだけに生まれた命だった。長田さん。結局なんだったんだろう。希望を与えてくれたって……もし何もできないなら最初からそんなこと言わないでほしかった……)
繭浦はそのまま滝へと落ちていく――
「――捕まえた!」
天鶴の声と共に、繭浦は手を掴まれ引き寄せられた。存在しないはずの断崖絶壁の滝。その壁の中に放り込まれる。
そしてそこには先に落とされた鳳の姿もあった。
「長田さん……?」
☆☆☆答え合わせ。
ふう。なんとか、キャッチできた。繭浦さんが落ちてくると思ってたのに、鳳さんも落ちてくるもんだからびっくりした。
だけどこれで二人は助かったも同然だろう。
「言いましたよね、希望は捨てちゃダメだって」
「いや、長田君。待ってほしい。この場所にこんな洞穴なかったぞ、私は調べたはずだ。この滝には逃げ道など存在しない。確実に死を迎えるヤバスギ様への供物として……」
「だから昨日から掘ったんですよ。ないなら掘ればいいんだ」
そう、昨日は徹夜したのは、滝の下に穴場を掘っていたからだ。流石に手が痛くなってる。
「「え?」」
「い、いや、長田君。き、君は……この洞穴を一晩で掘ったというのかい? しかもここは断崖絶壁だよ。いったいどうやって! そもそも、どうやってこの場に立ち寄ったんだい!?」
「えっと、まず滝から落ちてみて助かりそうにないか確認して、そのまま崖をよじ登りました。そのまま、道具は持ってこれなかったので素手で殴って穴をあけて……」
「「はい?」」
「できたのもギリギリなんですけど、このまま二人を運んで滝から降りようと思うんですけど。大丈夫ですか?」
「……長田君。君は何をっているんだい? ふざけているのか?」
「まぁまぁ、俺のことはいいんです。問題はこれからのことです。それより村の人達はお二人が死んだことになってます。あの高さから落ちれば普通の人が助かることはまずいないので」
「(そこから落ちた長田君はなんなんだ……)」
俺の行動に驚いているみたいだが、特にふざけたことはしてるわけではない。
「だから、二人はもう自由になったんです。村の掟とかに囚われることもない。だから逃げていいんですよ。繭浦さん。外の世界を知りたいと言ってましたよね」
「長田さん……でも、ヤバスギ様の祟りでこの村の人は全員死んで……」
んなもんあるわけないだろう。俺は神とか信じないし、信じてるのは力だけだ。でも、繭浦さんはそれを不安がっている……優しい人だな。自分を殺そうとした人間を心配しようとするなんて……
だからこそ、彼女を救ったことで俺に感謝を向けられモテる可能性が大いに上がる。
ははは……祟りが起きてみろ、俺が食い止めて見せる。
「ヤバスギ様の祟りも俺が止めて見せますよ。大丈夫です」
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