第12話 虚闇村

☆☆☆やばい村


ここは虚闇村。日本地図には載っていない。山奥に存在するやばい集落である。


俺と札森は何の抵抗もすることなくこの集落に招かれる。村の人達は皆が笑顔であって、どうぞどうぞと、村で取れた特産品の山菜料理は実に美味しかった。家で食べる飯の百倍は美味い。


そして、もう外は暗いから民家に泊って行きなさいと言われ、親切を受け入れざる得ない状況だ。


ちなみに門限に関して、俺の場合ないに等しいし、札森は『先輩の家に泊っていく』と親に言ったらしく認めてもらったらしい。札森の両親もそれでいいのかと思う。一応男の家だぞ……


「美味いっすね~うわ、これ美味いっす! 美味いっす! あ~これすげえ美味いっす! あ、これはそんな美味しくないっす!」


そして、札森は誰にでも懐くのですぐに村人と打ち解けていた。その全てをスマホでこっそり撮影していた。


しかしこいつこの状況がやばいって分かってないのか? のんきに飯を食ってる場合じゃないだろ。まぁ俺もごちそうになっているんだけど。美味いし。


「この村は皆が皆で協力し合って過ごしている素晴らしい村なのです。これも全て、『ヤバスギ様』の恩恵あっての物なのです!」


うわ、胡散臭い宗教来たよ。なんだよ『ヤバスギ様』って。


「へぇ、そうなんですか。ところで、鳳さんは……」


「――なんのことですか?」


「「「「「……」」」」」


すると、村人は一斉に俺に強い視線を向けてくる。怖っ。もしかして、殺されたか?


「……それよりも、このお茶とかどうですか? えっとあなた名前は……」


こういう胡散臭い奴に本名教えるのも怖いな。家に直接突してきたら……クソ親父がどうにかしてくれるか。でも日常生活で付きまとわれるのは困るな。


それに、札森も俺のことを先輩と呼んでいるので、まだ名バレしていない。


「河野雄一です。あいつは俺の幼馴染の野河ゆっこです」


「そうですか、河野さん。貴方もこの素晴らしい祝福を与えてくださった。『ヤバスギ様』について……」


「そ、そうですね~やっぱ凄いですね『ヤバスギ様』マジヤバスギです」


とりあえず適当に話を合わせている。だって、なんか圧が怖いもん。札森は動画を……


「すぴ~~~すぴ~~~先輩……先輩先輩……もう食べられませんよ~~~~ぐがががが~~~~」


寝てるし!


「あら、野河さんは寝てしまったようですね。今日はお疲れでしょう貴方も休んだ方が良いのではないでしょうか?」


「あぁ、そうですね、人間睡眠取らないとやっぱり、大変ですからね、これもヤバスギ様の恩恵です」


とりあえず、ヤバスギ様って言っとけば話し合わせられる。便利だ。


「俺こいつ運んでくるんで、失礼します。ヤバスギ」


民家の二階に札森を眠らせる。しかし……ここの住民。お茶とかに睡眠薬入れてるな……


既に飲んでしまってるので、意識が遠のきそうだ。でも、拳で殴って脳を揺らし意識を保っている状況だ。


しかし、随分まずい状況だ。札森は恐らく睡眠薬を盛られ寝てしまっている。


「せんぱい……だめっす。だめっす! 垂直落下で頭から落とさないでくださいっす……そのまま三角締めはマジで落ちるっす……ギブっすギブっす!」


どんな夢見てんだよ……窓から外を見渡すと、社にまだ火が灯っているのが見える。


俺の視力は遠くを見渡せる。もしかして、あそこに鳳さん捕まってるのかな……流石に殺されたりしたら後味が悪いので、札森のスマホで撮影しとこう。事件だったら証拠になるだろうし……


とりあえず、布団が二つあるので、俺達が寝てる風にしとけば、村人は干渉してこないだろう。


「せんぱい~~せんぱい~~~すぴ~~~すぴ~~~」


こいつ俺の夢見てるのか? まぁいいか。札森も布団に放り込む。


☆☆☆侵入


さてと、二階から飛び降りる。村人はなぜかこの社を警備している。気配を殺しながら社へ走って行く。こっそり、こっそりとだ。


子供の頃は熊とかに出くわしたら死ぬので、気配を消すことに長けている。だから誰にも見つかることなく社に侵入出来た。


ヤバスギ様の神体があったり、なんか如何にもって感じの社だな……


「っきゃぁぁ!」


……人の声? いや、後ろか……?


「あなたは……ここの人ではないですね……」


すると、長い綺麗な黒髪の白装束を纏った女性が、俺を見て驚いたのかしりもちをついていた。


胸もほどほど大きく。顔も凄く整っている。まさに大和撫子って言葉がふさわしい女性だ。


この村こんな美人いたのか、胡散臭い奴しかいないと思っていた。すげぇ好み……やばい。滅茶苦茶可愛い……


しかし、この状況やばいな。社に勝手に侵入して、撮れ高……じゃなくて、鳳さんを助けようと思ったんだけど……見つかってしまったようだ。


「あ、え、えっと、俺はですね――」


先程の彼女の悲鳴で人が集まってきている。やばい、逃げる場所は……


「って! うわぁ!」


「そこでじっとしていて……何があっても出て来てはいけません」


すると、手を引っ張られ、近くの物置に入れられた。村人が入ってきたのか外で会話が聞こえてくる。


「マユラ様……何かございましたか?」


マユラ。それが彼女の名か……それに様付け、彼女はこの村で偉い立場の人物であるということか。


「いいえ、何も御座いません。ただ、虫が飛んできて驚いてしまっただけです」


「そうですか、貴方の身体はヤバスギ様に捧げる供物です。もし何かあればすぐに申し付けください」


供物……? いやな響きだな。


それだけ言うと村人は立ち去っていく。


「もう出てきて大丈夫ですよ。余所者さん」


出てくる。マユラは笑っていた。


「えっと……あ、助けてくれてありがとうございます?」


「私は繭浦ルミカです。虚闇村の……いえ、ヤバスギ様の供物となるためだけに生まれた生け贄です」

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