第11話 天鶴の秘境探索チャンネル

☆☆☆登山


一般的なら三時間くらいかけて向かう山だが。俺達のスタミナであれば一時間もかからずに山へ着く。


まぁ、この山は訪れたことないので、熊が出るのか、イノシシが出るのか分からない。だが、看板にイノシシ注意と書かれているので多分出現するだろう。


台本とかは書くのがめんどくさいので、その場で起きる出来事を伝えていこうと思う。


札森がスマホで撮影している。


「さぁ始まりました。本日一回目の動画っす! 山で幻の生物を見つけ出すっす! それでは隊長の先輩どうぞっす!」


札森が上手いことやってくれている。だが、イノシシとかではなく幻の生物ってなんだよ、いねえだろ山には……それと俺に振るなよ……なんて言えばいいんだ。


「あ、あぁ……探検に必要な物、それは……えっと、勇気だ。えっと……小さい子は真似するべきではない。なぜなら俺は特殊な訓練を受けている。だからイノシシや熊に出くわしても平気なわけだ。えっと……とりあえず、頑張るぞ」


「せんぱ〜い。滅茶苦茶コメント下手っすね」


うるせぇよ……その後山へ入り探索が続く。適当に枯れ木を剥がすと……


「あ、ここ枯れ木クワガタの幼虫いるぞ! うおぉ! 蛹もいる! すげぇ!」


クワガタの幼虫を見つけてテンション上がった。


「あ、ほんとだクワガタっすねーうわぁぁ! 一匹ぐらい持ち帰ってもいいっすか?」


「いや、返しておこう。成虫になってから捕まえた方が良いだろう。餌代かかるし」


「あぁ、そうっすね! あ、先輩先輩。夏になったら捕まえた虫で最強決定戦しませんか?」


だから小学生じゃないんだから……でも……


「オオクワガタ捕まえに行きたいな。ヒラタの方が強いけどさ」


「それとミヤマって雑魚っすよね。いっつもすぐ死にますし」


「それはお前が温度管理できてないだけだろ。あの系統普通に暑さに弱いって聞くし」


深山にいるからミヤマクワガタって言うんだし。涼しいとこが好みなんだろう。


「えーなんで夏主役のクワガタが暑さに弱いってわけわかんないっすよ」


「それは昔と違って今の暑さは生物が暮らせないほど深刻化しているからだ。だから俺はこれ以上温暖化を進めないため、クーラーをつけていない」


厳密にはクーラーが存在しないのだが、ほんと熱中症になるからつけてくれよクーラー……


「すごいっすね~せんぱい! あの暑さに耐えられるなんて!」


そのまま俺達は山を進んでいく。結構奥まで進んでいくがイノシシは出現しない。


「全然出てこないっすね~幻の生物どこにいるんすかね」


これじゃあ、ただ幼虫を探索しているだけの動画に過ぎない。再生数は伸びないな。もっとこう……迫力があるやつを……


「せっかく視聴者にイノシシに出くわした時の対策を教えようとしたのにな……!?」


すると、遠くから何かが近づいてくる。


「は、はわわわわ! な、何かが私達に近づいてくるっす! もしかしたらまだ未発見の伝説の生物かもしれませんっす! 気を付けるっす!」


「なんでそんなワクワクしてんだよ、どうせ、イノシシだろう。熊だったらお前はもう山降りろよ、ほんと危ないから」


臨戦態勢。まぁ、熊なら掴み合えば、札森に危険は及ばないだろう。


すると、林の中からソレは現れた。ソレは熊でもなくイノシシでもなく。ましてや伝説の生物でもなかった。


「……た、助けてくれ……」


なんかぼろぼろの衣服を着た中年の男が出てきた。


「わ、なんすか、大丈夫っすかねあの人、もう三日も飲まず食わずの生活送ってそうな生に限界を迎えている格好してますけど」


とりあえず俺が様子を確認すると、酷く衰弱していた。恐らく三日以上は飯を食っていない。かなりやばい状況だな


「大丈夫ですか、一体この山で何が……」


「や、ヤツらが来る……私は、ヤツらの秘密を知ってしまった。ヤツらが……うぅ……一刻も早くこの山から立ち去らなければ……私は殺されてしまう……」


「「……」」


札森と一瞬何も言わずに向かい合った。そして全く同じことを考えたはずだ。


((超動画のネタになるじゃん……))


☆☆☆ヤバい集落


このままこいつを山から降ろすことは簡単だ。だが、そしたら、彼の言う『ヤツら』の詳細が永遠につかめなくなってしまう。


動画の材料として最高だ……ヤツら……一体何者なんだ。


「落ち着いてください。貴方は生きています。僕は動画配信者をしているものです。どうか、その話を詳しく聞かせてください」


「うぅぅ……そう、それは私がこの山を訪れた集落でのことだ。私は鳳宗谷おおとりそうやと言う。この山にしか存在しない古風の文化が未だ根付いている。『虚闇村うろやみむら』そこでは……」


鳳さんはその後も根も葉もない噂を語っていった。要するに、なんかとにかくやばい集落だろう。うわ、ほんとそういう集落って存在してるんだ……神様のせいで人が失踪したりとかそういうのが当然のように起こるやばい場所だ。


「何とか逃げられたが時期に追手……うぅ……来た。来たぁ……」


『『アブラーラコトアブラーカ……ヤバスギサマ……ヤマスギサマ……』』


祭りばやしと共に声が聞こえてくる。なんだ……この撮れ高は!? 


「せんぱい! 凄いっす! これ動画に上げたら絶対再生数が伸びますって! うひゃぁい!」


俺達は『虚闇村』集落の鬼の仮面を被った村人に囲まれた。


「っく……これではどのみち逃げるのは無理か……」


いや、本当は簡単に逃げられるんだけど、一回集落で捕まってみれば、撮れ高があるからな……


「く、た、助けてくれぇ! 私はまだ死にたくない……折角逃げられたというのに!」


鳳さんは抵抗しているが、この人数では無理だろう。


「抵抗しないっすから! ついていくっすから~!」


こうして俺達はやばい集落へ招き入れられたのだった……


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