第10話 ゲームは諦めます
☆☆☆最強の敵
状況判断は山でのサバイバル生活で経験済みであり、目の良さもあってかFPSは俺の得意なジャンルであった。的確に相手を撃ち殺せば死んでいく。何て楽なのだろう。
「どうだ! フリーマッチで最後の一人勝ち残ったぞ、札森。俺天才だろ」
「うわ……たかがフリーマッチで優勝しただけでどうして、こんな浮かれてるんすかこの人……普通に下手な人とばっかマッチングしただけですって今回」
「俺の天才プレイ見たら、女子がキャーキャー言うに違いない。ははは!」
「じゃあ、ランクマやって、トップ行けたら認めるっす。どうぞ」
ランクマが何なのか分からないけど、たぶん行けるだろう。俺がゲームの才能があるんだ……
「あぁ、当然。楽勝っしょ……」
こうしてランクマが始まった。次々に俺は敵を倒し続ける。やはり、雑魚ばっかだ。ランクマもFPSも大したことはない……!
「ははは! こいつら初めて間もない俺に簡単に殺されてやがるぜ! まぁいるよね、そうやって才能ない奴……まぁ、俺は天才だから……あ……」
『you lose』
「うわ、せんぱいキルされてる下手っすね~」
何……俺が反応速度で負けた……? いやいや、おかしい、俺が撃とうとした弾道を完全に読み切っていた。
まるで俺が撃とうとしたことを予め知ってるかのように……
「うわぁ……しかもキルした人。死体撃ちして煽り散らかしてるっすよ。えっとユーザー名はクロスローズ……あれ、どこかで聞いたことあるような……」
死ぬほど煽られているのは伝わってくる。まぁ、俺はこの程度の安い挑発に乗るような浅はかな男に育ったつもりはない。
大体。こんなゲームで殺されたところで実際に殺されてないんだから。意味がないんだ。そもそもね、実際銃で撃たれれば死んで動かなくなるんだよ。
こういうふうにゲームばっかりやってるやつは本当の実戦というモノを知らないんだ。(俺も銃撃戦は経験ないよ)
「今回はたまたま油断しただけだから。次は勝つ」
「せ、先輩滅茶苦茶イライラしてません? 私のスマホ壊さないでくださいっすよ」
「あぁ、大丈夫だ。俺が同じ失敗を繰り返さないと思うか?」
『you lose』『you lose』『you lose』…………
その言葉が延々と続く……そのたび煽られまくった。まじで腹立つ!
「何度やっても……クロスローズに勝てない……くそぉぉぉ!」
「せんぱい諦めましょう。上には上がいるんすよ……何度やったって勝てませんっすよ」
「そうだな。別にゲームが上手くても女子にモテるとは思えないし、そうだ。熊退治とかした方が再生数稼げるだろ。イノシシとか。生配信やれば投げ銭が飛ぶ!」
「そうっすね、結局体動かすほうがいいっすよ。先輩の身体何のためにあるんすか」
とりあえず今にも叩きつけそうなスマホを札森に返す。
「よし、ゲームなんかやらなくていいんだな。じゃ、札森山までの撮影役」
「はいっす! 何を倒すんすか! 熊すか? イノシシすか?」
予鈴が鳴りいったん解散となった。いつも通り授業を受け放課後になった。
札森と待ち合わせをし、いざ、熊退治に出かけようとする。
「あ、せんぱいどうもっす。調べたんすけどクロスローズって人プロゲーマーっぽいっすね。動画配信チャンネルもあるっぽいっす……」
「あのクソムカつくクロスローズってやつ配信者だったのか。じゃあ、俺のライバルじゃん」
「ちょうど、さっきやった動画上がってるっすよ」
どんな奴がやってんだろう。ちょっと気になるな。
『あははは~~~雑魚はいつまでも雑魚なんですぅ……ごめんなさ~い! すっごく強くて! あははは~~~弱い者いじめさせないでくださいよ~~』
「……低評価着けとけ。サブ垢でもやれ」
「はいっす」
☆☆☆熊退治へ
今の時代スマホがあれば、動画は上げられる。俺のスマホスペックでは無理なので札森を頼ることにした。
「それで結局熊倒しに行くんすか先輩。今から探して出てきますかね」
「俺にできる手っ取り早い再生数稼ぐ方法って言ったらもうそれしかないだろう。熊のいる場所ならなんとなく勘で分かる」
「やった~せんぱいと一緒っす~~熊もしっかり撮影しますから!」
こいつまさか、山までついてくる気か?
「いや、山には着いてくんな。熊はマジで危ないから死ぬぞほんと、何度死にかけたことか」
「せんぱいってホント何度も死にかけてるっすよね、そのたびに強くなって帰ってくるからいいんすよ。でもなんで私だめなんすか」
「お前素手で熊倒せるか?」
「やってみたことないから分からないっすけど私強いっすよ。しゅっしゅっしゅ。ほらどうっすか?」
見よう見まねでやってるシャドウ。簡単に避けられそうだな……
「お前ボクシングやってないだろ。なんだその気の抜けたシャドウは……」
「でも、虎徹さんから武術習ってますから、多分そこいらの人よりは強いと思います。今から喧嘩してきていいっすか、この辺にたむろってる不良と!」
「不良が可哀想だからやめような。いたずらに暴力を振るうのは良くないから」
札森は確かに古武術道場で武術を習得しているが、流石にクソ親父も俺のような特訓はしていないだろう。
つまり熊と対峙すれば確実に死ぬ。
「いや、マジで熊舐めない方が良いぞ」
「えーなんでっすか~酷いっす~酷いひどい~じゃあ、山の撮影一人でやるんすか~せんぱいと一緒が良いっすよ! イノシシ! イノシシなら大丈夫っすよね!」
イノシシならまぁ……俺がしっかりしてれば札森を危険にさらすことはないだろう。
「分かったよ。でも熊出ても責任取らないからな。まじで」
「はいっす! せんぱいやっさしぃ!」
このまま俺達は自転車に乗って山へ向かう。
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