第7話 サッカー部県大会

☆☆☆初戦!


五月上旬。サッカー部の県大会が行われることになった。俺は専用のユニフォームに着替え、サッカーグラウンドへ出ていく。点数を取ることだけ考えていた。


そういえば、監督からシュートの練習とかさせられずに、一生体力トレーニングさせられたけど……結局ルールもそんな覚えてなくて大丈夫かな。


「な、なぁ河野。サッカーのルールって……」


「……勝つ……勝つ……絶対勝つ……」「殺す殺す殺す……」


そして、変わってしまったサッカー部の仲間達。話しかけても何も帰ってこない集中力だ。どうやら、モテるためそこまで必死になってるんだろう。すごい。


きっと俺には想像もできないきつい特訓をしたのだ……歴戦の猛者のようなオーラを出せるようになっている。


ここに集まった者たちはサッカー部がモテるから、大会に勝とうとしてるんだ。


そしてそれは俺も同じ、県大会初戦。俺達は弱小校だから一切マークされていない。


そんな中で活躍出来たら他校にすら名前が響くだろう。きっと、俺の追っかけファンも着くに違いない……今から校門で下校を待つ女子生徒の想像するとわくわくしてきた……ははは……


「ふふふ……っははは……」


「ーぱーい。せんぱーい」


「どうした。札森」


するといつものうるさい札森が話しかけてきた。


「何一人でニヤニヤしてるんすかキモイっすよ」


「今俺は気分が良いんだ。多少の失言は無視しよう。ところで札森。サッカーのルール分かるか?」


「え、先輩なんでサッカーのルール分からないでサッカー部入ったんすか? う~ん……」


札森はスポーツならなんでもできる。せめて反則系は覚えておかないと。


「あ、じゃあ、漫画読むっすか? 私ルール説明するの下手なんで、これ読めば頭が馬鹿な先輩でもサッカーのルール分かると思うっす」


言い方が腹立ったけど、まぁいいだろう。カバンから出した漫画を受け取る。


「『カミナリイレブン』か……分かった」


「いや、マジでおもろいっすから私全巻持ってますし、おもろかったら貸すっすよ」


ところで、漫画ってどうやって読むんだっけ……あのクソ親父が漫画なんて買ってもらうわけもないので……それに普段の読書は参考書しかない。分からない……


でもとりあえず絵だけ見ていけば分かるか……


試合開始までぱらぱらと漫画を捲った。なるほど、こんな感じにやれば。


△△△強豪校襲来。


バスにて訪れた強豪校。炎帝学園。部員数百人以上の去年全国優勝を成し遂げた。サッカーエリート校。中にはU15で世界に羽ばたいていた選手もいる。


「あのさー俺思うんだよね~県大会ってやる意味あんのかなミツル。どうせ俺達が優勝するわけじゃん~~」


「オノカワ……今回出場する学園の中には、他にも強い奴はいる。その油断がチームを負けさせたら、君は退部だよ」


「は~い。じゃ、俺は試合までナンパしてくるよ~」


「まぁ、オノカワの言う通り、我らが炎帝学園に勝てる奴なんていないのだがね……なっ!」


すると、天鶴たちの高校が出てきら瞬間。炎帝学園の部長のイケメン。ミツルは並々ならぬプレッシャーを感じる。


「どうしたのさ、ミツル~そんな弱小校同士の試合なんて見て?」


「オノカワ……お前は気付かないのか? あのプレッシャー……」


すると、天才エース。ハットトリックのオノカワも天鶴を見た瞬間。表情が変わる。


「へぇ……あんな、弱小校にも怪物こちらがわがいるなんてね……今回の県大会は荒れそうだよ……少しやる気出てきちゃった。あそこ……俺達とは3回戦で当たるか……楽しみだ……」


「油断するなよ、他のやつらは大したことないが、あの男だけは怪物だ……そして今それが証明される時……」


「先輩頑張るっす~せんぱい~~~せんぱい~~~がんばるっす~~~~」


『それでは試合開始です!』


試合のホイッスルが鳴る。そして……


『ゴール!』


天鶴がありえない速度で動いてゴールにボールを押し込んだ。会場は騒然とする。その誰もが天鶴を見ていた。


「おい、オノカワ今見たか? いや、厳密には……彼の動きを追うことが出来たか……?」


「へ、へぇ……俺が目で追えないくらい早い奴……こんなとこにいたんだ……」


オノカワは焦りながらも強敵との遭遇ににやりと笑った。


炎帝の生徒達。否。


「ほんっと……今年の県大会は荒れるだろうな……そういえば彼の名前は」


すると、試合を見ていた女子の会話が聞こえてきた。


「あ、前合コンにいた河野君。河野雄一君だよ! 凄い活躍じゃん……かっこいい~~~!」


「ほう……『河野雄一』か……覚えたぞ彼の名前……!」


「「「「「河野君! 河野君! 河野君!」」」」」


そして、観客は誰も長田天鶴のことを認知していなかった……


☆☆☆悲しき初ゴール。


「河野くーん!」「河野く~ん!」


……なんで、河野のコール飛んでんだ……? 開幕ゴール決めたの俺だろう。


「うそ……俺すげぇモテるじゃん……なんで? 決めたの長田じゃん」


河野が喜んでいる……くそ。羨ましい! 俺より目立ちやがって……だったら、その河野のコール丸ごと……俺が圧勝してやる……


「うおおおおおお!」


漫画で見た高速移動を真似してゴールにシュート。それを繰り返した。


「河野! 河野! 河野! 河野!」


しかし、俺がいくら努力しても、一向に河野コールが鳴りやまなかった……


「……だから、なんで俺のコールがなってんだ?」


河野ですら分からない河野コール。そして俺のゴール……


試合は俺達の圧勝で終わった。


「「「「うおおおおおお! 河野! 河野! 河野!」」」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る