第4話 新たな指導者

△△△サッカー部のコーチ


職員室では教員同士である会話が行われていた。


「ほほほ……我々の高校は、サッカー部が弱小高校ですからな。今年も県大会初戦敗退でしょう。昔は全国にも行く強豪校だったのですが……最近では出会いやらモテるやらと不純な動機でサッカー部に入る連中が多すぎるのですよ……ほほほ……」


校長は湯呑でお茶を飲んでいた。


「私は、もう一度、強豪校あのころの情熱を取り戻したいのです! サッカー部は終わっちゃあいない! ってことで、新しいコーチを連れてきました!」


「ほほほ……なるほど、コーチ……資料によれば、かなり問題を起こしているとか……熱血指導で退部者続出。体罰問題もあるとかないとか……」


「ですが! 彼が来てから弱小サッカー部が全国に行くほどの強豪校に育った実績があります! もう手段は選んでられないのです。彼に任せましょう……」


「ほほほ……もし体罰問題が露見した時の覚悟は出来ているのですな……保護者への説明責任も問われますが……ほほほ……」


「はい。コーチに全部責任を押し付けます!」


「「ほほほほ……」」」


☆☆☆長田の親父


サッカー部に入ると決心した夜。家に帰宅した。その瞬間――


「うぉぉぉぉ!」


玄関を開けて早々殺気を感じると同時に拳が飛んでくる。


「おらぁあ!」


上手くかわし思い切りカウンターで打撃を叩きこんだ。


「こんな夜遅くにどこへ行っていたのだ……天鶴よ……」


実の息子に帰宅早々パンチが飛んでくるのが、この家では当たり前のことだった。


俺の親父。長田虎徹は生粋の格闘家であり、四十を過ぎてもなお現役の化け物。クマを倒したり虎を倒したり、なんか色々倒している。


身長も日本人離れしている。なんかとにかく、強い。当然……幼い頃はスパルタ教育をされていた恨みがある。


「どこに行ったっていいだろクソ親父……合コンだよ。俺サッカー部入るから」


「たわけが! はぁぁぁぁ!」


クソ親父の蹴りが飛んでくると俺も蹴りで迎撃する。骨通しの激しい音が鳴った。


「天鶴。お前の足はこの道場を継ぐために鍛えたものだろう。ボールを蹴る遊びのために必要なものではない……ならばへし折ってやる。そうすればサッカーできなくなるだろう……それに合コン……そんな軟弱な女しかいない場所にお前が向かうとは……失望したぞ!」


更に足へ力が加えられる。俺も負けずに力を加えた。


「そうかよやってみろよクソ親父ぃ!」


幼い頃は力で絶対に敵わない立場だったが、高校にも上がればそれなりに抵抗は出来る。


力を一瞬抜いて胴体へ向かうクソ親父の足を掴んだ。


そのまま、思い切りドラゴンスクリューを食らわせた。


「うおりゃぁ!」


「甘い!」


しかし俺が回転すると同タイミングで身体を同じ軸に捻ることで着地される。だが……


「うぉぉ!」


そのままヒールホールドに入り一気に足を壊してやる……!


「っぐ!」


固定していない方の足が顔面に飛んできた。一撃で脳が揺れる衝撃だ……


「この俺が足を取らせると思うのか? まだまだだな!」


「うるせえ!」


その後何度も親父をぶん殴ってぶん殴られた。正直俺は殺す気でやってるのに全然倒れない。どうなってんだよこの親父毎回殴ってるけど……


「はぁ……はぁ……」


「どうした? その程度か天鶴! お前はこの道場を継ぐ――」


「継がねぇよ! 俺は普通の学園生活を送ると言った!」


「少なくとも天鶴は俺の知る中で俺よりは弱い。そんな弱い人間が普通の学園生活送れると思っているのか! 俺の時代ならお前なんか不良に虐められて自殺してるぞ!」


少なくとも俺を虐めてくる奴はいないだろ絶対。他の人よりは喧嘩強い自信はあるし……


「時代は変わったんだよ。今はスポーツができるやつがモテるんだ! 俺は修行なんてしねえし、普通のサッカー部に入って青春を謳歌するんだ!」


「認めん! 認めんぞ!」


「だったら実力で認めさせてやる……うぉぉぉぉ!」


その後も何度も殴り合った。母親に止められるまで数時間はやったな……


☆☆☆長田の覚悟


翌日。登校中なぜか札森が俺についてくる。


「え、せんぱいサッカー部入るんすか? え、せんぱいサッカーできるんすか? せんぱい全国行く気っすか?」


「何で知ってんだよ。お前に言った記憶ないんだけど」


「虎徹さんから聞いたんすよLOMONで」


クソ親父とLOMON交換してるのかよ……てかLOMONやってることが驚いたよ。まぁ札森と親父は仲が良いんだが……


「あぁ、俺はサッカー部に入って全国行くんだ。モテたいから、邪魔すんな」


「いやいや、せんぱいサッカーのルール分かってるんすか? それにここの私達の高校弱小校じゃないすか。全国行くなんて無駄っす。無駄っす! それより私と遊びましょうよ! せんぱい! ドッジボール! ドッジボールしたいっす!」


「あぁ、分かった。取ってこーい」


その場にある石ころを投げる。


「はいっす! わんわん!」


そのまま、札森は投げた石を追いかけている内に全力ダッシュして学校へ向かう。


教室に着くと、河野がいたので話しかける。


「河野。二年からでもサッカー部入れるよな! 入りたい!」


「ああ、話は聞いてるんだけど……その言いずらいんだけど……なんか、サッカー部のコーチが変わるみたいなんだ」


指導者が変わるか……前の指導者知らないから何とも言えない。


「それ何か問題あるのか?」


河野が嫌そうな顔をする。


「長田がサッカー部入る理由ってアレだろ? 『モテたい』から」


「当然だよ」


「その、新しく入ってたコーチが、原岡っていうんだけど、凄い厳しいらしいんだよ」


……なるほど、河野は半端な気持ちでサッカー部に入ると後悔すると言いたいのだ。それも友情の優しさなのだろう……


「問題ないよそのぐらい。そんな半端な覚悟でサッカー部に入るわけじゃない。俺はモテたいから入るんだ。指導者が厳しいぐらいで根を上げたりしないさ。警告してくれてありがとうな!」


「おう……」


俺の覚悟はその程度ではない。それを河野に伝えられてよかった。

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