第2話 友人の誘い

☆☆☆友人


翌日。家の前で待っていた札森を上手く巻いて学校へ向かう。教室へ入るとHRまではまだ時間があるな……


クラス替え後。話していたクラスメイトと離れてしまったため新しく交友関係を築かなければならない。


古川さんはばらさないって言ってたけど、俺。大丈夫かな。でも、もう俺の過去が広まってる可能性ないだろうか……不安だ。


「あ、長田じゃん。俺覚えてるか? 去年体育祭でアンカーの時競い合った。河野だ」


よかった……クラスでボッチにならずに済んだ。まだ噂は広まっていないようだ。河野は確かサッカー部に所属しているバリバリの体育会系。


去年の全員リレーで一緒に走った男子だ。


一年間で俺のキャラは勉強もできて運動もそこそこできる優等生として通ってきている。


「当然覚えてるよ。あとちょっとで勝てたんだけどな」


「なあ、長田。春休みの課題終わったか? 見せてくれよ~」


「一応自分でやらないとダメなんだぞ」


「分かってるよ、今回だけ! 本当に今回だけだから!」


……うわ、宿題見せるの凄い普通の学生っぽい……


「全部は写すなよ、疑われたら俺まで怒られる」


「さんきゅー! 長田いい奴だな!」


ノートを渡すと、河野は課題をやりに行った。うん。今のところ噂は広まっていないようだな。


さて、このクラスの女子はかわいい子がいると思う。だけど俺は高嶺の花は望んでいない、普通に優しくて普通の子が良いんだ……


そんなことを考えると授業が始まる。よかった。あいつは俺のクラスに乗り込んでこなかった。


☆☆☆昼休み友人と……


「なあ、長田。課題見せてくれたお礼にパン一個奢るぜ。飯行こう飯――あれ。長田?」


「おう、食堂……悪い! 先に行ってる!」


昼休み。何か嫌な予感がして、俺はすぐに教室を離れようとする。


「ーーぱい! せ~~~んぱい! 遊びに来ましたよー! せんぱい! 先輩いますよね! このクラスですよね! せんぱ~い! せんぱいせんぱい! 体調悪いんですか~~~~~!」


うるさい。何とか俺は階段の隅に隠れている。しかし残された河野が対応している……頼む……


「君一年生だよね。誰探しているのかな」


「あ、私は札森京都っす。せんぱいっす! あ、ここにいる人全員せんぱいっすね。二年生っすから!」


「そうだけど……あ、俺は河野だけど」


「はい、私が探しているのはこぶ――」


やばい。このままでは俺の正体がバラされる……クソ……


俺が階段から姿を見せると……


「あ、せんぱいこんなところにいたんすね! この人探してたんっす!」


俺に気付くとすぐにこちら側へ走ってくる。


「……何の用だ。二年生の教室来るのって普通にダメだぞ」


「なんでだめなんすか? 私先輩に会いたいだけっすよ。ご飯食べたいって言いましたよね」


「一言も言ってないぞ俺」


「私がです!」


お前の事情聞いてないよ……しかし、やばいぞこの状況。下級生が上級生の教室に来るのは凄く目立つ。


しかも新学期早々……


「長田の後輩だったのか、随分仲良さそうだけど彼女か何かだったりするのか?」


「「ない」っすね」


そこだけは意見が一致した。こいつに恋愛感情を抱くことはない。札森も同じ気持ちだ。


「こいつとはただの腐れ縁だから、幼馴染だよ。お前も俺のとこ来ないで同級生と仲良くしろよ。高校入学してそれはやばいぞ普通に」


「えーなんでっすか! せんぱいとドッジボールしたいっす~」


小学生じゃないんだぞ……


「とりあえず、俺は河野と飯を食べる約束を先にしてるんだよ!」


「ひどいっすよ~~~せんぱいなんて、階段から落ちて怪我すればいいんっす! びっぐばんべーだ!」 


「それ言うなら、あっかんべーだろ……」


それだけ言うと、札森は落ち込んで帰っていく。階段から落ちたくらいで怪我しないだろう。


そのまま俺は河野と二人で食堂へ向かった。


「良いのか? ドッジボールやりたいなんて随分活発的な子なんだな。札森さん」


「あいつは小学生から何も成長していない。まぁ、悪い奴ではないけど、流石にドッジボールはしないだろう……もう高校生だぞ」


そう、高校生なんだよな。札森も……身長もそんな伸びてないし、やはり、あいつに恋愛感情なんてないな。胸もぺったんこだし。


「まぁ、そうだな……それはそうと、さっきこぶが何とか言ってたけど――」


「――昆布茶が好きなんだよな最近~~」


「渋いね~~~」


何とか誤魔化すことは出来た……そのまま河野と食堂でパンを奢ってもらった。


当たり障りのない普通の会話をした。しかしこれが学生らしい食事。


奢ってもらったパンも美味しかったし、大満足である。


☆☆☆友人の誘い


「頼む! 長田! 助けてくれ!」


放課後。河野に頭を下げられた。


「どうした? 課題ならさっき……」


「違うんだ! 長田に見せてもらったけど、結局間に合わなくて補習になっちまって……悪い……その、俺サッカー部じゃん。部活でその、合コンがあってさ、他校のバスケ部女子なんだけど……」


「ご、ごごご、合コンだと!? バスケ部女子!!」


「そんなに驚くのか……それで、俺さ穴埋めないといけないから、代わりに出てほしいんだけど頼めるか?」


合コン……同人数の男女が集まり一緒に食事するリア充イベント……そして出会いの場……


正直に言えば合コンの経験ないが、これはチャンスだ。俺は……


「経験なくても大丈夫なものなのか? 俺モテた試しないぞ」


「サッカー部って、言ってればモテるから大丈夫大丈夫。それに長田は人数合わせみたいなもんだから。俺の代打。つまりピンチヒッターだ」


おぉ……スゴ。


「サッカー部ってモテるのか……?」


「まぁ、俺普通に女子から声かけられるよ、キャプテンとかやってたらもっとモテるな!」


「二年でも入部できるかな。俺モテたいんだよ。まじで」


「長田……そんなに女子に飢えていたのか。よし、それなら合コン行くべきだ! 失敗してもいいから頑張ってこい! 俺の代わりだ!」


「分かった!」


こうして俺はサッカー部でもないのに合コンへ参加することとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る