センパイ!遊びましょうっす!

空現実

第1話 嵐のような後輩

☆☆☆告白


よし……ついにここまで来た。ここまで来たんだ……


「長田君……」


四月の新学期が始まり俺こと長田天鶴おさだてんかくは、二年生になった。俺はモテたい。勉強だって上位の成績を維持し続け、体育祭でも活躍をした。身だしなみだって気を使ったおかげか、不細工ではない自信がある。


そうとなれば必然的に恋人ができるんだ。この一年女子の株を上げ続けた結果が現れた。努力は裏切らない!


今は桜が散りゆく校舎裏の放課後。女子に呼び出されていた。


相手は一年の頃。同じクラスだった女子。古川さん。彼女とは普通に会話もして、放課後も一緒に遊ぶくらいの中だ。つまりここに二人きり話があるということは……


俺の努力がようやく実ったということだ。一年……一年頑張ったんだ。


「古川さん……」


俺から告白することも考えたが、フラれた時にメンタルが壊れそうなので恐れている。


「そのさ、私ね……長田君のことが好――」


「――ちょっと待つっすーーーーーーー!」


……はい?


すると、見慣れた女が俺と古川さんの間に入ってくる。凄まじいスピードだ。


女子にしては短いショートカットの茶髪。短めのスカートからちらりと見えるスパッツ。まだ少し肌寒いにもかかわらずブレザーを腰に巻いている。


彼女の名前は札森京都ふだもりみやこ京都と書いてみやこと読む。俺とは腐れ縁の一つ下の女子だ……


だが、なぜ、リア充ライフを送ろうとする最高で美しい瞬間にこいつが……?


「この人の家。古武術道場だから付き合ったら大変っすよ! 父親も凄く怖いっすから!」


「おい! 札森てめぇ!」


「えっ、古武術って、え……長田君が……?」


「そうっす、当然。喧嘩も強くて中学時代番長やってた不良っすよ! 言わば凄く怖い奴っす!」


そう。札森の言う通り、俺の実家は古武術道場を営んでいる。そのせいか、子供の頃から体を無理矢理鍛えさせられて死ぬほど苦労した。


中学に関しては父親から『勉強なんてするな! 身体と心を鍛えろ』とまで言われる始末だ。親なのにどういうことだよ……


もちろん俺は実家のことを嫌っている。こんなバカみたいに鍛えさせられて、普通の学園生活が送れないからだ。


中学時代も何もさせてもらえなかったし、クラスメイトからも変な目で見られてきた。不良に絡まれた時。相手を簡単に殴り倒したせいで、なぜか俺が番長ということにされていたし……そのせいで、ろくな思い出がない。喧嘩だけの日々だった。


その失敗から高校では実家のことを隠してきて度数の入っていない眼鏡をつけてがり勉優等生を演じていた。そうだというのに、こいつ全部ばらしやがった……!


「い、いや、その付き合ったら、話そうと思ってて。今は暴力とかしないから! もう、悪い事とかしてないし!」


「私、野蛮な人と付き合うのは嫌だから。元不良も無理。ごめん。長田君。さっき言ったこと忘れて! その、皆には黙っておくから! ごめんね!」


「ちょっと待って古川さん! 古川さ~~~~ん!」


古川さんは俺の声を無視して消えていった。


☆☆☆うざい後輩幼馴染


「くそ……くそぉぉぉぉぉぉぉ!」


そしてその場に跪いて声を上げる。終わった……俺のリア充計画が……


「まぁまぁ、いいじゃないすっか。あの人そんなにセンパイのこと好きそうじゃなかったですし! それより、見てくださいこの制服! 私受験受かったんっすよ! どうすか強そうっすか?」


「……いや、お前のせいじゃん。普通に告白上手くいってただろ。まじ何なのお前……」


こいつは空気を読まないことで定番である。控えめに言って馬鹿なのだ。


札森とは小学生からの付き合いだ。彼女は実家の古武術道場に通っていたこともあった。小学生の頃は一緒に馬鹿やる悪ガキとして名を轟かせる。(俺は改心したが)


中学時代は別のところに通っていたためあまり連絡を取っていなかったが、去年の受験勉強を教えたこともあってか、同じ高校に通うことになってしまった。


そして今その恩を仇で返されている。


「せんぱいせんぱい。何怒ってんすか? プロテイン飲みます? 私。振りますよ。シャカシャカシャカシャカシャン!」


「札森ぃぃぃ!」


暴力は良くないけどデコピンぐらいならいいだろう。


「痛いっす。先輩。痛いっす~~~私入学したんっすよ! 制服かっこいいとか褒めてもいいじゃないっすか~!」


そしてこいつは小学生の頃から変わらずに馬鹿である。この年になって『かっこいい』だから。女子であることを捨てているのだ。


「というか、お前高校デビューで髪染めてるじゃん。どういうことだよ」


「先輩の真似っすよ~せんぱいも染めてたから私も染めたんっす。かっこいいっすよね?」


茶色の髪を見せびらかしてきた。


「パクるなよ……」


「って、ことで、今日から再び先輩の後輩になったっすから、よろしくっす! せんぱい!」


「いや、よろしくしたくないんだけど、受験勉強の時に言ったじゃん。俺もうそういう戦いとか、喧嘩とか、古武術とは関わりたくないって……普通の学園生活が送りたいってさ……」


そして俺の過去をよく知る人物だから、こいつと関われば俺の過去が露見してしまうし……


「じゃ、私と送ればいいじゃないすか! 学年違いますけど休み時間とか毎回遊びに行きますから! 昼休みはドッジボールとかしませんか!!!」


だから、小学生じゃねえんだぞ……


「とにかく、俺に付きまとうな。俺は恋人を作って普通の学園生活が送りたいんだよ!」


「えー先輩に恋人とか無理ですって! 彼女出来て実家に招いたらアレっすよ。プッシュアップバーで殴られて耐えられる人いないですって!」


プッシュアップバーで殴られて耐えられる彼女って何者だよ……


……確かに彼女と俺のクソ親父を会わせたくない……


「大体先輩は実家継ぐなら、それ耐えられる人しかダメだと思うんすよ~」


「いや、俺実家継がないよ」


「え……先輩実家継がないんすか……」


少し残念そうな顔をする。


「あ……先輩もしかして、世界狙ってますか? 『総合格闘技MMAなんかダセェ! 下らねぇ! 俺の古武術でぶっ潰してやらぁ!』とか言って乗り込むとかですか、だとしたら実家継がないのも納得いきますね!」


「格闘漫画じゃないんだから……それに古武術ポジってそんな強くねえだろ。どうせ、序盤のかませだよ。普通に大学行って就職するんだよ」


素で驚いた顔をされた。


「え、せんぱいの進路って『戦い』じゃないんすか?」


「俺をなんだと思ってんだお前は……」


「先輩は……そうすね、筋肉もあって柔術も体得している……職業は……『馬鹿』っすね……イタァイ! またデコピンしなくてもいいじゃないすか! 痛い痛い!」


おでこにデコピンをしまくった。


「お前にだけは馬鹿と言われたくないよ」


「すんませんっす! じゃ、せんぱい。アイス奢ってください! 痛い! ぎゃ~~~頭触らないでくださいっす! ふしゃ~~~~!」


そのまま髪をわしゃわしゃする。動物みたいだなこいつ。


「とにかく、明日から俺についてくんなよ。まじで」


「はいっす! いや、はいじゃないっす! せんぱい一緒に帰りましょうよ~~~! せんぱい~~~」


後輩に付きまとわれる。最悪な一日であった。俺フラれたし……

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