第2話 その他の要因

アメリカではTSMCの工場に関連するサプライチェーンの構築に遅れが生じていることが報じられていますが、工場と電気と水と優秀な製造装置があれば半導体ができるわけではない。工場の周りにコンビニがあればいい、という話ではないのです。

  

高機能なモノ作りに付随する多くの業種、付随製品、各種サービス、プラス豊かな文化環境がなければ良い物は作れないし、たとえ一時(いっとき)作れても長続きしない。

半導体関連のエンジニアやその家族が、豊かな衣食住・学校や文化施設もない砂漠同然の地域で何ヶ月暮らせるだろうか。製造装置への依存度が高い半導体製造とはいえ、それを作るのは技術者とその家族という人間です。物作りに必要な物質的環境と同じく、それを作る人間や家族に必要な豊かな文化的環境がなければ、どんなに高給でも、技術者とその家族はついてこない。

今、台湾や韓国のハイテク分野の企業にとっての死活問題のひとつは、優秀な日本人エンジニアが台湾や韓国に来てくれないという問題なのです。

今までは、日本が数十年かけて作り上げてきた半導体の生産技術をパクリ、日本製の優秀な製造装置をそのまま使ってやってきた台韓のハイテク企業ですが、それも限界になってきた。

台韓とも、肝心の基礎研究は全くしてきていないし、新しい技術をベースに新しい製造ノウハウを確立するには、優秀な製造現場の工員が山ほど必要なのですが、台湾や韓国には両方とも不足というか、全く人材がいない。

だから彼らは日本人の高度技術(者)や、製造現場で働いてくれる優秀な女工さんたちを求めて日本へやって来る。

もともと、台湾とは半導体の製造には向いていない土地です。

地震は多い、停電はしょっちゅう、南洋なので雨が多く、出水で町が水浸しなんて災害も多い。

しかも、台湾の場合、100年前の日本統治時代以来の古い施設ばかりで、基本のインフラが老朽化しているために、災害後の鉄道や道路、電気やガス管の復旧に時間がかかる。寸断された幹線道路数キロの完全復旧に1年かかる、なんてことがザラにある台湾。

2年前には、日中、台湾中の電気がすべてストップなんていう、とんでもない事故がありました。

朝、8時にパソコンが止まる。表に出てみれば、コンビニもスーパーもすべて真っ暗。結局17時まで、全台湾が信号機も動かず、どの店も開店休業という状態。冷蔵・冷凍庫の電力は蓄電池でギリギリ持ったようでしたが、もう数時間復旧が遅れていたら、冷凍・冷蔵品の大安売りになっていたでしょう。発電所で大爆発があったということではない。「ちょっとしたミス」なんだそうです。

高雄駅の日本製エレベーターが故障すると、そのメーカーの日本人技術者が来るまで直らない。

日本製の列車が大事故を起こして何十人もの死者が出た。台湾鉄道が裁判で日本メーカー(の製造責任)を訴えたが、結局、鉄道会社のメンテナンスがずさんで酷すぎたという事実が(現場の運転手たちから)暴露されて、台湾鉄道が大恥をかいただけ。

日本製の踏切が故障すると、やはり日本人技術者が来るまで、3日間人間が踏切に立っている、なんて漫才のようなことが起こる。


水はきれいではない(非常にまずい)。中国からの汚染空気と、桁違いに多いオートバイの排気ガスによって、台湾の空気はもの凄く悪い。以前、台湾の新聞に「台湾に住み始めてから鼻毛が異様に伸びた。」という日本人駐在員の奥さんの記事が出たくらいです。

私の住む龍泉という町は、台湾南部の山の麓にあるのですが、1年の内、空気が澄んでいるのは2週間程度。日本の東京の方が、よほど台湾の山の中よりも空気がうまい。

水に関しては、原住民の肌の色を見ればわかりますが、山奥の水でさえ、鉄分などの不純物が多いので、沸かして飲んでも身体に悪い。「水がきれいだからビール工場がある」と言って生水を飲んでいた私の家の大家(男性)は、40代で癌で死んでしまった。トイレの便器は、一週間掃除しないと藻がつく・・・。

グアテマラでもそうでしたが、水が悪いので原住民の肌が褐色になるのだろうか?

決して強い太陽光線のせいばかりではない、という気がするのですが。

実際、人工透析が必要とされる患者の数は台湾が世界一らしい。

ハイテクに必要な環境(モノ・文化)

いまや、世界中で高品質のモノ作りに付随する多くのハードウェアとソフトウェア、そして、衣食住、学校や文化施設といった生活環境レベル両方を満足させることのできる地域は、日本と中国だけといっても過言ではない。

ロシアもインドもだめ。韓国では、狂った人間がレストランで食事にうんこを入れたり衝動殺人が絶え間ない。タイやベトナムは、リタイアした人間がテニスでもしながら余生を送ろうというのであればいいが、若い奥さんや子供のことを考えれば、躊躇するだろう。アメリカでも欧州でも、簡単なモノなら作れるが、何万もの付随するモノやサービス、優秀な工員を安定供給できない。土地があればいいというものではないのです。

アメリカ人や移民たちが、中国人や日本人の女子工員のような、気が利く作業ができると思いますか、という話なのです。優秀なエンジニア以上に、精密機器を間違いなく操作できる、真面目でよく働く女子工員というのは、今や日本と中国くらいしか存在しないのです。

台湾の会社にとっては中国語が通じる中国が一番良いのでしょうが、アメリカや台湾客家がそれを許さない。技術の流出などではなく、台湾人の技術者が中国に溶け込み、飲み込まれてしまうから。台湾に比べて格段にメシは美味いし、文化施設も桁違いに豊かだし、政治的な文句さえ言わなければ、エンジニアにとっては手厚く保護されるしっかりとした国なのですから。

アメリカの植民地である日本であれば、アメリカも台湾客家も日本の政治屋など自由に操れるし、衣食住・文化面でも台湾や韓国に比べて格段に上です。半導体に必要不可欠の水も、台湾に比べて比較にならないくらいきれいで豊富です。

だから、台湾人は喜んで日本に移住する。

韓国と同じで、(特に高学歴・高収入を求める)台湾人は、台湾を出たくてしかたがない。

中国人にはガッツと気合い、そして知的レベルでも敵わない。

韓国なんて、死んでも行きたくない。

アメリカではアジア人として住みにくいし、結局アメリカの中国人に飲み込まれてしまう。

タイヤベトナムを彼ら台湾人は見下している。

結局、台湾人にとって理想の地は日本なのです。

九州の熊本や茨城県の筑波といった田舎度であれば、田舎者の台湾人でもついていける。中国でのように台湾人がバカにされることもないだろう。

しかし、なににせよ、TSMCという会社にとって、最大の目的は優秀な日本人エンジニアの確保にある。台湾も韓国も、自転車とバイク(は韓国にはなし)・自動車(台湾にはなし)・造船、そして半導体にしても、すべて日本からの技術でここまで来たのですが、数十年で行き詰まってしまった。

もともと、50年前の日本の半導体開発にまつわる苦労知らずで、その成果だけをただでもらい受け、国際金融資本家の後押しでなんとかやってこれた韓台の半導体産業。当然、基礎研究なんて全くやっていない。

だから、これから先の技術の読めないし方向も決められない。

基礎研究にまさり、それを製造技術に結びつけられるのは日本人と中国人しかいない。

中国が政治的に駄目なら、結局、再び日本におんぶに抱っこしてもらうしかない。

中国は自力でここまでやってきた、という点では韓台よりもよほど根性も頭もある。

だから、彼らは全く新しい視点で半導体を開発し、それを組み入れた各種装置を自力で開発していけるかもしれない。しかし、韓国・台湾は、日本という兄がいないと前へ進めないのです。

だから、ああだこうだと「もったいぶりながら」「日本に恩を着せながら」、その実、日本に泣きついてくるのです。

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