まわるPDCA

じこったねこばす

まわるPDCA

過去の悪辣な営業ですり減らした顧客との関係性を取り繕うべく、その昔銀行内では「提案型営業」「課題解決型営業」という言葉が踊った。


しかし、顧客の経営課題に関わる問題解決には相応の時間がかかる。大体の銀行員はそれまでそんなことをやったこともなかったし、「銀行業績は景気の鏡合わせ」であるはずなのに、世の中のあらゆる経済指標を無視した独自の伸び率を目指す銀行のオナニーみたいな収益予算は、営業現場に対して顧客とのリレーション醸成を待つ猶予を与えない。


そんな中でも、私がもっとも銀行に対して失望を覚えた提案スタイルは・・・・プロフ欄をご参照。 するまでもなく、当時の私の上司が発した「ジャンピング土下座」というワードだった。


数字のために「土下座営業」を超えた「土下座営業」をしろ。ということらしい。 心の底から呆れ果てる。

後輩はこのマネジメントを揶揄するため、飲みの席において座敷で立った姿から助走をつけてジャンプし、宙空で正座体勢になったあと土下座で着地するという大技を繰り出した。膝を痛めた。


また、そのマネジメントはどこかで拾い食いしたPDCAというワードを濫用した。 なにかというと「PDCA」としか言わない。

「PDCAを意識しろ」

「PDCAをぶん回せ」

「PDCAサイクルが回っていない」


もう、そのうち「PDCAの充電はできてる?」、「ちょっとかえりがけにクリーニング屋でPDCAとってきてよ」、「今日のPDCA、ちょっと味濃かったね」とでも言い出しそうな勢い。


営業拠点を預かっているくせに「ジャンピング土下座」しか思いつかないお前のPDCAは一体どうなっているんだ??と喉元まで出かけた。

いや、もしかすると私は態度や表情で少しピロリロリンしちゃっていたかもしれない。


私はやつが吐くPDCAの意味を、

P・・・ポンコツで

D・・・土下座

C・・・しかない

A・・・アカンやつ

のあいうえお作文を用いて理解した。


PDCAはやたらとお客さんのところに行きたがった。

営業拠点長なので、その姿勢は理解できるが、思想は全く理解できなかった。

お客様の立場もわきまえず、会ってすぐさま前戯もなしに土下座する。

出会って⚪︎秒で合体シリーズをリアルにビジネスの場で展開するのだ。

担当からするとたまったものではない。


銀行のお偉いさんなので最初のころはお客様が会ってくださったが、どのお客様からも面談後すぐにメールが届く。

「あのひと二度と連れてこないでね」。と。


しばらくするとどの営業担当のところでもPDCAを連れて行くと言うとアポが取れなくなった。


徐々に日中暇になるPDCA。

顧客訪問アポを取れ!と檄が飛ぶ。


なかにはPDCAがあまりにもうるさいので、お客様にPDCAを連れて行くと事前に言わず客先に連れて行ってお客様の心象を害す担当者も出てくる始末だ。


ありがたいことに私は土下座しなくても営業ができていたので責められることはなかったが、同僚がPDCAに作らされていたどのお客様に何をお願いするのか?を記載した「土下座リスト」を見た時には吐き気を覚えた。


時が経ちそんな会社が「お客様本位の営業」という看板を店頭に掲げているのを見て思わず吹き出してしまった。


PDCA、一体いまどこで何してるんだろ。。


おしまい

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