ガタン ガタン ガタ ガタ ガタ ガタ ガタ……プシュー……


 『ご乗車、有り難う御座いました。終点、千夜ヶ原前~千夜ヶ原前~。足元にお気をつけて……』


 そんなアナウンスに立ち上がり、僕は電車の外へと足を進めた。

 スマホを確認すると、時間はまだ7:00前。受付が、8:30からだから、時間にはまだ腐る程の余裕がある。

 万が一、億が一まで考えてスケジュールを組んだのだが、やはり早すぎたらしい。これならいっそ……いや、遅れるよりはましか。

 そう考え直した僕は、ホームのベンチに腰掛け、あまり見られない終点後の電車の動きというものを見てみようと思ったのだが。


「……」

 

 目の前では車内の確認というには早すぎる速度で先頭車両から最後尾まで走り抜けていく車掌さん。

 二両という短い距離ではあるものの、その距離を全力疾走と思われるほどの速度で駆け抜けると、


 『ドアが閉まります。ご注意ください』


 そんなアナウンスが流れた後にドアが閉まり、先ほどまで僕の乗っていた電車はあっという間に元来た道を引き返して行ったのだった。

 まるでこの場から逃げるように。


「……行くかぁ。」


 その異様なまでの行動に覚えた若干の不安を振り切って、僕掘っ立て小屋の様な駅へと向かった。

 そこには改札も無く、券売機と、切符を入れる箱がただそこに有るだけ。

 本当に、ここがいろんな意味で有名な学校の最寄り駅だと言うのだろうか。

 こう言っちゃ失礼かもしれないが……


「いくら都下とはいえ東京っていうぐらいなんだから期待してたんだけどなあ。」


 辺りには、何軒かの家屋と、山にでも繋がっているのか、人の手が入った様子すらない木々。

 これならウチの地元と大差ないじゃないか。

 そんなことをぼやいた時だった。


「そりゃそうだよ。その考え方でいうなら、東京と他の県の境は都市と田舎で綺麗に分かれてないとおかしくなっちゃう。」


 突然聞こえた声の方に顔を向ければ、いつの間に来たのか、僕の正面に真っすぐこちらを見詰める一人の少女が居た。

 見た目としては、肩まで伸びた短いストレートに、ぱっちりと開いた瞳。

 言葉と言い、その目といい、どこかはつらつとした印象を受ける。そんな少女だった。

 というか、黒と赤のチェックが入ったオーバーオールのスカートに、白いシャツ。

 この制服って……


「あの、貴女は?」


 若干察しを付けながらも、僕は一応そう尋ねた。

 それに少女はニコッと微笑むと……


「私は新島 紗江!君のこれから行く学校の先輩だよ!戸鹿原君!」


 そう言うのだった。

 ……いや、いくら笑顔でそんなことを言われたところでツッコみどころが多くてロクに理解はできないんだが。

 第一……


 「なんで僕の名前を知ってるんです?」


 取り敢えずはこれだろう。

 最寄り駅である時点で、ここを利用しようとする生徒は僕以外にも沢山いる筈だ。

 それなのに何故……


 そう訊ねると、目の前の少女はなんら表情も変えることなくこういうのだった。


「実はね。理事長に君を迎えに行ってあげてって言われたんだよ。」


 そう返ってきた言葉に僕は思わず眉を潜めた。

 理事長。この千夜ヶ原学園の創立者の孫でありながら、自身でも全国展開の不動産会社を一代で築きあげたとか言う、いわゆる成功者の一人だ。

 彼女との関わりなぞ、一度面接で顔を合わせたぐらいなのだが……

 

「理事長が?それまた一体どうして……」

「さぁ?私はただ呼んで来いって言われただけだし分からないなぁ。あ、それよりさ」


 そう言って話を切り上げた少女は、こちらに手を伸ばしてこう言う。


 「早く学校に行かない?新入生が来るのは久しぶりだから案内するの楽しみにしてたんだ~」


 ……どうやらなんとも、マイペースな先輩らしい。

 この調子なら何かを企んでると言うこともないだろうが……まぁ、警戒しておくに越したことは無い。

 一応二、三歩ほど後をついて歩くことにしよう。


 そう考え、伸びてきた手を取らずに僕は歩き始めた……のだが。


「はーい、一緒にいきましょうね~」

「おっ!?」


 なんと、先輩の横を通った瞬間に僕の手は握られていたのだった。

 最初の内は振り払おうと腕を振り回してみたのだが……変なのだ。

 確かに動かしてはいる。上に、下に。先輩の腕を払うべく動かしてはいるのだが……衝撃が来ないのだ。

 振り切った瞬間に働くべき慣性という法則が働かない。まるで振り下ろす、あるいは振り上げるまでに勢いを殺されているような……先輩は力も入れてない筈なのに一体どうして。


 そう考えつつ、うんうん言いながら格闘すること約五分。

 縦横無尽に動かそうが、やはりなんら反応が変わらなかったため、僕はあきらめて先輩の手に引かれながら歩くのだった。

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