第17話 一通のメッセージ

 林間学習ではそれなりにクラスメイトとの距離感の進展を実感でき、いつかと同じように学校生活での変化を期待する。しかし一時的な特殊環境での出来事は普段の生活には影響を与えてくれないようだ。少しの息抜きを満喫すると期末試験が迫り、中間試験よりも長い一週間におよぶ勉強漬けの日々が始まった。

 教科書やノートとにらみ合う悶々とした日々の中に一日だけ大事な予定が組み込まれていた。テスト勉強に行き詰り始めた三日目の放課後、川崎さんに英語のテスト対策と称し教えてほしいと頼まれる。連絡をもらったときは僕よりも氷室君のほうが適任ではないかと断ろうとしたが、中学時代に一度教えてもらったが駄目だったと言われ不安が残りつつも引き受けることとなった。

 ずっと一人で勉強し兄弟がいるわけでもない僕に教える経験などあるはずもなかった。初めの方は言動もあやふやで余計に戸惑わせているのではと帰りたくなったが、彼女が真剣に聞きながら相槌を返してくれるおかげで少しづつ落ち着きを取り戻す。最終的に難しく考えず普段やっている勉強方法とちょっとしたコツみたいなものを伝えた。思考が似通っているのかそれともそもそも自頭がいいからなのか彼女はスラスラとペンを動かしている。この日の予定が立ってからテスト勉強もそこそこにどうしようか悩んだ甲斐があったと問題を解く川崎さんを見て嬉しく思う。特に変わったことはしていなかったのでこれであれば氷室君でも出来るのではと彼が駄目だった原因を探るが見当がつかなかった。

 始めは僕と川崎さんのほかに残る生徒は二名ほどだったのだが、一人の生徒が教室に現れ一緒に勉強しようと確認をとるや教室から消え他クラスで勉強していた生徒も連れて戻ってきた。序盤こそ勉強をしていたがいつの間にかトークの方に熱がこもり教室内は宴会会場へと様変わりしてしまっている。

 川崎さんとの居残り対策は一時間も経たずに終了してしまい、その後は完全下校時間まで全員テストのことも忘れ口だけを動かし解散。いまにしてみればちょうどよい飴だったなと思えるが、この日の夜は家に帰るなり部屋に閉じこもり徹夜覚悟で机に向かいそのまま気絶するように眠っていた。

 回答用紙をすべて埋め終え時間を持て余しここ一週間のテスト勉強期間を振り返っているとようやくテスト最終日最終科目の終わりを告げる鐘の音が鳴った。答案用紙の回収が終わり先生が教室のドアを開け出ていくと速やかに帰宅準備へと取り掛かる。睡眠時間を削りひたすらに問題を解き続ける日々から解放されいますぐにでも眠りにつきたい気分だ。ホームルームが終わるのを今か今かと待ち望み、ついに日直による号令がかかる。礼と同時に机の横にかけられた鞄を背負いあげると昼空の下自宅へと一目散に自転車を飛ばす。昼食を適当に食べ制服から部屋着へと着替えると、翌日が休日なことをいいことにアラームもセットせずにベッドインした。

 目を覚ますと部屋は真っ暗になっており、スマホを置いた場所へと手を伸ばす。手探りで見つけたスマホを手繰り寄せ画面をつけるとまぶしい光が目に刺さる。一瞬のホワイトアウト後再び画面を確認すると時刻は日付が変わるギリギリだった。

 寝すぎてしまったなと布団にスマホを投げ捨て首を回していると、電子音が部屋に響く。光を放つスマホを手に取ると川崎さんからメッセージが届いていた。夜遅くにどうしたんだろうと困惑していると再び電子音が鳴る。次は柳さんからのメッセージ通知だった。夢ではないかと頬を数回叩いてみたが通知は表示されたまま残っており現実だと急いでロックを解除し確認する。

 アプリを開くとメッセージは個人チャットではなグループチャットに送られたものだった。何かを期待した僕は少しがっかりしつつ、見たことのないトーク数が赤丸で表示されたグループチャットを開く。眠っているときから行われていたトーク内容はテストも終わったことだし親睦会のときのメンバーで遊びに行こうという誘いだった。


「深田君起きたみたい、日曜日に遊ぼうってみんなで話してたけど行けそう?」


 リアルタイムのトークへと追いつくとなぜか僕がいることがばれていた。どこかで見られているのかと辺りをキョロキョロといるはずもないのに確認してしまう。内容は確認済みだったので、ひとまずの疑問は置いておいて参加できる旨を伝えた。僕が既読というシステムを知るのはもう少し後の話である。

 すでに日付は変わり夜も更ける時刻となっていたためトークに加わるもすぐにスマホは鳴りを潜めてしまう。またみんなで集まれることに心を躍らせつつリビングへと向かい遅すぎる晩御飯を口にした。

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