第15話 林間学校6
森を抜けると実行委員長と数名の女子生徒が待っていた。川崎さんの姿を見るや女子生徒たちは駆け寄り、心配の言葉を口口にする。どう答えようかと悩むように川崎さんは押し黙ってしまったので女子生徒たちから僕が何かしたのではないかと疑いの眼差しが向けられた。
「途中足元が悪くて川崎さんが足をひねったみたいだから少し遅くなった。それでなんだけど看護の先生のとことまで一緒についていってあげてくれないかな」
ほんの少しの真実だけを口にして、慌てて弁明する。遅れた原因を知ると再び心配の声を口にした女子生徒たちは川崎さんを連れてこの場を後にした。僕たちが最後だったのか実行委員長も確認を終えると報告へと向かい、僕は一人キャンプファイヤーが燃え上がるグラウンドへと足を運んだ。
活気あふれるグラウンドへと戻ってくると、先に帰ってきていた氷室君たちのそばに腰を下ろした。先ほどの女子生徒同様に心配され、道中あったことを説明する。川崎さんが怖がっていた様子は隠したのだが、氷室君はなにかを察するようにうなずいていた。話終えるとやっぱり最後の仕掛けだけが気掛かりで思い返し聞いてみる。
「最後のギミックなんだけどちょっと変じゃなかった」
漠然とした疑問を投げかけると、なんとも思わなかったと特に不信感を抱いた様子はないというような返事が返って来た。
「女の人が出てくるのが遅かったのはたまたまだたのかな」
演者側になにかトラブルでもあったのかなと僕はボソッと口にする。
「女の人?そんなの見てないぞ。最後はぬめぬめした物体が横から飛んできて終わった」
「それもあったけどその次だよ。ゴール手前の茂みから現れるやつ」
冗談だろと必死に状況を説明したが彼はまったく身に覚えがないようだ。ずっと氷室君の隣りで静かに聞いていた柳さんも彼に確認を取られコクリとうなずいた。僕だけが目撃者であれば気が動転していたなど理由がいくらでもつけられるが、今回は川崎さんもいて見間違いなんてことがあるはずもない。かと言って嘘をついているようにも見えず、嫌な汗が背中を伝う。このことを川崎さんには明かさないでおこうと決め、二人にも秘密にしてもらうようにお願いした。
最後のあれが何だったのか分からず就寝時間となり、眠れるか不安だったが体の疲労はおかまいなしに僕を深い眠りへといざなってくれた。快眠で翌朝を迎えた僕は起き上がると外の洗面所へと向かい顔を洗い歯を磨く。再び体育館へ戻るといまだに布団にくるまる生徒がたたき起こされておりダンゴムシのように丸まった彼らを眺める。全員が起床すると朝食のパンが配られ食べ終えると、林間学習二日目は朝早くから始まった。
数時間ぶりにグラウンドに会した僕たちは朝礼を行い軽く体を動かすと移動を開始する。本日一発目に予定されていたのは清掃だ。体育館、校舎、グラウンドと割り当てられた持ち場へと向かう道中に気になる話題を大西君が教えてくれた。
「昨日の肝試しのときに抜け出して森で告白した奴がいたらしいぞ」
朝から愉快気に語る彼に続きを促すと、肩を落とし失敗に終わったことが告げらた。それは可哀そうにとフラれた彼もしくは彼女は今どんな気持ちで二日目を送っているのだろうと想像していると一つの可能性が思い浮かんだ。
肝試しのときに茂みから飛び出してきた男子生徒がそのフラ人物で後から出てきたのが告白された女性ではないのだろうか。もしそうであれば二人が現れるまでにあったタイムラグにも合点がいく。本人に直接確認すればすべての謎が解けそうだが感傷に浸っているであろう男子生徒に聞くことも、初対面の女子生徒に話しかける度胸もなくただの憶測どまりとなる。それでも少しだけ真実に近づけたような気がして昨夜の出来事から恐怖感を拭い去れそうだ。
未知の出来事が儚い青春の一幕へと様変わりし、微笑ましい気持ちで教室の窓ガラスを拭いていると明るい声で呼びかけられた。
「昨日はなんかいろいろとごめんね」
すっかりいつもの調子に戻った川崎さんが隣へと立ち窓拭きに加わる。昨夜の守ってあげたくなるような弱弱しい姿も悪くないが、やっぱり彼女には笑っている姿が一番お似合いだ。
「気にしてないから大丈夫、足の方はどう?」
「もう平気、今は恥ずかしい気持ちで胸が痛いよ」
あの状況では仕方ないと思うが、頬を赤く染めた彼女にいつかと同じように口封じをされた。また一つ川崎さんの秘密が増え、これかもいろいろな彼女の一面が見られたらいいなと思う。拭き終えた窓ガラスからは透き通った陽射しが差し込み僕たちを照らしていた。
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