【KAC20247】色を付ける

龍軒治政墫

うっかり定吉とちゃっかり旦那様

 江戸の町に定吉さだきちという奉公人がおりまして……。

 この定吉、男ですよ? 今回は間違いなく男です。


 そんな定吉ですが、これが少々うっかりものでして。

 奉公先の旦那様にはいつも迷惑をかけております。

 だけど旦那様もお気に入りなのか、やめさせようとはしませんでした。



 そんな定吉と旦那様が買い物に来ておりまして。

 焼物屋で品定めをしておりました。


「これが今流行りの、招き猫ってぇヤツか」

「はい。福を招く猫ということで今、江戸の町で流行はやっております」

「ほう」

「手前どもの店先に置きましたら商売繁盛しまして、これは是非皆様にもと、並べている次第でございます」

「効果は折り紙付きってぇわけかい」


 招き猫を手にとって見ていた旦那様は、

「気に入った!! 買おうじゃないか」

 そう言った後、定吉の耳元でそっと、こう言います。

「定吉や。代金に色を付けて渡しなさい」

「へえ」


 するとどうでしょう。

 定吉は筆を手に取り、銭に絵の具を塗り始めましたもんだから、旦那様は大慌て!


「定吉! 何やってるんだい!」

「へぇ。旦那様が色付けろというので、色を付けております」

「そうじゃないんだよ! 色を付けるってのは、少しおまけしなさいって意味だよ」

「違ったんですか!」

「だいたい、なんでそんな塗る道具なんか持ってんだい」

「へぇ。もしかしたら町娘が『色が塗れなくて困ってます』なんてことがあるかもしれないと。それであっしが助けたら、惚れちまうんじゃないかと思いましてね」

「ないよ! そんなこと絶対ない! とにかく、代金を支払いなさい」

「へい」


 代金を少し多めに払って招き猫を受け取り、旦那様と定吉は店を出ました。

 その帰り道。


「まったく……。あの焼物屋はこの辺じゃあ顔が効くから、しれっと恩を売っておけば、うちも安泰だってぇのに。あんなことされちゃあ、バレるじゃあないかい」

「おや? 焼物屋に払う代金より、旦那様が一番色付いてらぁ」

「ん? どういうことだい?」


「旦那様の腹は真っ黒」

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