猫の絵の具

星見守灯也

猫の絵の具

 全ての猫は、産まれる前に絵の具を持っている。

 茶色、銀色、黒、白……。

 どの色を持っているかはそれぞれ違う。



 産まれる前の猫は、水のように透明の色をしている。

 その目だけが茶色や金や青にキラキラ光っていた。

 ふわふわとろとろとした猫たちは、神さまの前に自分の絵の具を持ってくる。


 にゃあと言ったその猫から、神さまは絵皿を受け取った。

 この猫は、黒と茶色。そして白。


「うーん。白があるから、やっぱり、お腹は真っ白がいいよね」


 神さまは筆で猫のお腹に白を塗っていく。

 にゃーんとくすぐったそうに猫はうねった。


「ふんふんふーん、ふんふふんふふーん」


 お腹だけがまん丸と白く塗られた猫が神さまを見る。


「手足も白がいい? わかった」


 手足の先を塗り塗りすると、猫は真っ白な手を嬉しそうに動かした。

 神さまは考える。この子にはどんな柄がいいだろうか。





「あとは黒と茶色かあー……」


 神さまは筆を回して「ううむ」と悩んだ。


 猫の毛の色を決めるのは神さまの大事な仕事である。

 人に愛されるようにとよくよく考えなければならない。

 猫の顔を見てパッと決まる時もあれば、じっくり考える時もある。

 同僚が入れた目の色は金。毛が何の色でも似合うなあ。


 神さまはどうしようか迷って、猫の毛色のパターン図を見た。


「白と、黒と茶色の猫ちゃんはー……」


 この猫は女の子。白キジか三毛がスタンダードだ。

 さまざまな模様のパターン例を見ながら、神さまは決めた。


「三毛がいいな。ぶちの大きいやつ」




 まず、茶色の絵の具をどろりと背中に垂らす。

 頭から背中、尻尾まできれいに茶色が広がった。

 猫は気持ちよさそうに目を細めている。


「次は黒いくよ」


 今度は黒を筆に取って、頭と片耳を塗りつぶす。さらに肩とお尻にも。

 それからおまけで、右腰にまあるく模様を入れた。

 お腹の白を全体に伸ばして整えたらできあがり。


「うん、かわいい!!」


 神さまが声を上げると、猫はうにゃーと返事をした。


 そこには立派な三毛猫がいた。

 三毛猫は誇らしげにヒゲをピンと立てて見せた。


「じゃあ、お鼻と肉球入れてもらっといで」


 猫は次の神様のほうに歩き出す。




「はい、次の猫ちゃん。どうぞー」


 まだ透明の猫が出したのは白がたっぷり。


「あら、あなた白が多いのね。なら、きれいな真っ白にしましょうか!」

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猫の絵の具 星見守灯也 @hoshimi_motoya

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