今日は厄日だと呟くドラゴン
編端みどり
ドラゴンは涙目だ!
王女シルビアは強い。夫のガンツは、もっと強い。そんな夫婦は、王太子である兄が帝国の皇女から怪しい箱を贈られてから怒涛の日々を過ごしていた。
間者の目を欺き、怪しい箱の送り主である帝国を調べると皇帝は既に他界しており、新しい皇帝は皇女の兄だと分かった。
新皇帝夫婦はトリの姿になって庭を彷徨っていた。
トリとなった新皇帝夫婦は、魅了魔法を使う妹を助けて欲しいと頼んできた。
シルビアとガンツは、トリを連れて国に戻った。待ち侘びていた隊員達から、予定より早く帝国からの使者が来たと連絡があった。使者は、魅了魔法を使う新皇帝の妹だ。
シルビアはトリ達を連れて自分の部屋に転移し、ありったけの防護魔法をかけた。
「申し訳ありません。皇帝陛下ご夫妻をいますぐ元にお戻しするのは難しいです。妹君への対処も行いますが、まずは兄を守る事を優先させて頂きます」
「うむ。分かっておる。ワシらはここで大人しくしておる」
「念のため結界も張りますわ。よろしくお願いします!」
トリ達をシルビアの部屋に隠し、ふたりは急いで騎士団の詰め所に転移した。兄に送られた怪しい箱は第三騎士団が守っていた。
「隊長、おかえりなさい! 箱は俺達がしっかり守っておきました! 誰もおかしくなってません!」
「よくやった! 城はどうなってる?!」
「予定より早く皇女様が来て大騒ぎです」
「ガンツ様! わたくし侍女に変装してお兄様の様子を見て参りますわ!」
「シルビアは皇女様と面識はないのか?」
「はい! 変装もして行きますのでご安心下さい」
「分かった。頼む。俺達はこの箱を遠くに運ぶ。万が一でも被害が出ないように……」
「ドラゴン様の所に持って行きましょう! わたくしが転移します!」
「ドラゴン殿に協力を頼むつもりか?!」
「ええ、万が一我々がおかしくなってもドラゴン様なら大丈夫でしょう。あのドラゴン様はヒトの姿になれるそうですから、いざとなったらお兄様への伝達を頼みますわ」
「……偉大な生き物を使いパシリにしようとしてる……」
隊員達が呆れるなか、ガンツだけが鷹揚に笑った。
「無理強いは駄目だぞ。だが、案としてはいい。まず相談してみよう。ドラゴン殿が嫌だと言ったらすぐ別の場所に移る。いいな?」
「はい!」
「よし、3名だけ私達について来い! あとは待機と、城へ行き情報収集する班に分かれる! わかってると思うが、この箱の事は極秘だ! どこに間者が潜んでいるか分からん! ここを出たら迂闊に口に出すなよ!」
「「「はいっ!」」」
急いで箱を持ち、ドラゴンの元に転移したシルビア達。ドラゴンは、突然現れたシルビアに怯えている。
「何故ここに来るのだ人間!」
丁寧に事情を説明するガンツの後ろで、シルビアはただニコニコと微笑む。
ガンツはドラゴンとの交渉に夢中で気付いていないが、隊員達はドラゴンが哀れだと思っていた。
「あれ……もう駄目だよな」
「ああ……ドラゴン殿も気の毒に……」
ニコッと笑いかけたシルビアにビクリと姿勢を正す隊員達。
「わ……分かった……ガンツは友人だ……お前達が全員おかしくなったら兄に知らせるくらいはしてやろう……」
「本当か?! ありがとうドラゴン殿!」
「う、うむ。だが、我が動く事にはならぬと思うがの」
「もちろん、迷惑をかけないよう最善を尽くす!」
「ありがとうございます! わたくしはお兄様の所へ行きますわ!」
シルビアは転移し、兄の元へ向かう。
兄は箱の中のアクセサリーを付けて来いと迫られている所だった。シルビアの姿を見つけた兄は、すぐ開けて参りますと部屋に戻る。
「恥ずかしいので、ひとりで開けて下さいまし」
にっこり微笑む皇女は、王太子に媚を売る年頃の女性にしか見えない。
「かしこまりました。皆、部屋には入るな。すぐ取って参ります」
「ええ……お待ちしておりますわ……」
美しく微笑む皇女の目が、一瞬だけ赤く染まる。気が付いたのは、シルビアとフィリップだけだった。
フィリップが部屋に入ったら、すぐシルビアはドラゴンの元に転移して箱の封印を解いた。
兄を魔法で監視しながら、箱を開けるタイミングを指示する。
「この箱だな……よし……開けるぞ……」
フィリップはわざと、大きな声を上げてから箱を開ける。
「今です! 箱を開けて下さい!」
兄と同時に箱を開けたガンツ。箱からは、ピンク色の煙が溢れ出る。シルビアが風魔法で煙を散らそうとする前に、ドラゴンが動いた。
「我の家で気持ち悪い煙を出しおって!」
ドラゴンの炎が、魅了魔法を纏うピンク色の煙を全て焼き尽くした。ドラゴンの炎のすごい所は、焼こうと思ったもの以外は全く被害がないところである。
箱は綺麗なまま、ガンツも無事だ。
ガンツに手を出したらどうなるかこのドラゴンは分かっているだろうから、隊員達は心配はしていなかったがシルビアはガンツに攻撃したと思い怒っていた。
一瞬で膨れ上がったシルビアの殺意は、ガンツの笑い声で吹き飛んだ。
「はは、さすがドラゴン殿! シルビア、念のため箱も持って行け! コレは問題ないか? 調べてくれ!」
箱の中に入っていたアクセサリーはタイピンで、特に危険なものではなかった。
「ガンツ様! これを持って、お兄様のところに行きます!」
「おう! あとは任せとけ。詰め所なら俺達も魔法で帰れる。気をつけて行けよ!」
「はい! ドラゴン様、ありがとうございます!」
「ドラゴン殿、感謝する!」
「ふ、ふん! また困ったら来るが良い! ただし、必ずガンツを連れて来い! いいな?!」
「……アレ、隊長を気に入ったってのもあるかもしれねえけど……」
「うん、それだけじゃねぇよな」
シルビアの手綱を握っているのが誰なのか。ドラゴンもしっかり分かっていた。
今日は厄日だと呟くドラゴン 編端みどり @Midori-novel
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