チューリップの花

藤 ゆみ子

チューリップの花

 まだ少し肌寒い朝、チューリップの球根を植えた鉢に毎日忘れず水をやる。

 この球根は色分け中に混ざってしまって何色の花が咲くかはわからない。


「楽しみだなぁ」


「なにが?」


 屈んでチューリップの鉢植えを眺めていると、隣の家に住む幼なじみの大志がフェンス越しに声をかけてくる。


「チューリップだよ。何色の花が咲くかはわからないの」

「ふーん」


 聞いておきながら興味のなさそうな返事に美和はまたチューリップの鉢植えに視線を戻す。


「そんなに見たってわからないだろ」

「わからないから眺めたくなるんだよ」

「美和は何色がいいの」

「私は赤が咲いて欲しいなと思ってるけど」


 美和は赤色のチューリップが好きだが、枯れずに元気に咲いてくれたら何色でもいいと思っている。



 数日後、球根から葉を出し、葉の中心から少しずつ蕾が膨らみながら伸びてくる。茎が伸びた先の蕾はまだ開いてはいないがほんのり黄色い色をしていた。


「咲く前に色わかってんじゃん」


 美和がいつものように水をやり、屈んでチューリップを眺めているとフェンスに肘をかけた大志が覗いてくる。


「うん。黄色の花みたいだね」

「赤じゃなくて残念だったな」

「別にいいの。元気に咲いてくれれば」

「ふーん」


 また興味なさそうに相槌をうつ大志に美和はしばらくチューリップを眺めた。



 次の日、大志はホームセンターで赤い花を咲かせたチューリップの鉢植えが目についた。

 鉢に刺さったポップにはこんなことが書いてある。


『赤いチューリップの花言葉は 愛の告白 』


「愛の告白……」



 黄色い花を大きく咲かせた美和のチューリップは一週間ほどするとだんだん元気がなくなり、二週間経った頃には完全に枯れてしまった。

 美和がチューリップの鉢植えを片付けた次の日、大志が家に訪ねて来た。

 チューリップの球根が植わった鉢植えを持って。


「これ、赤いチューリップが咲くから」


 そう言って差し出してくる。


「くれるの?」


「いや……花が咲いたら、俺にくれない?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チューリップの花 藤 ゆみ子 @ban77

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ