第17話
「みんな良かったな。俺もそう思う……」
そうこうしているうちに、すぐさま鬼姫が部屋へと戻った。 湯築と高取は何事もなかったかのように、平静な顔で武の傍を離れたようだ。美鈴と河田と片岡だけは、武の傍で何やらこそこそと話し合っている。
恐らく……武のこれからの武勇伝であろう。つまりは、妄想である。
鬼姫も次第にそんな三人組を気にしなくなっていた。
ところで、この三人組も巫女姿である。
「お風呂はありますか?」
「武様の御背中流します!」
「何か手伝うことはあるッスか?」
三人組の声をまったく気にせずに、武は鬼姫にこれからのことを話そうとした。
(こいつらも無事で良かった)
「あの龍と戦うんだよな。なら、俺にできることは全部やる。怪我が治ったらすぐ……に……」
(うっ! 眩暈が……)
そこまで話すと、武は怪我による疲労で布団の中でぐったりと寝入ったようである。
「お休みなさいませ……」
鬼姫は優しく武の頭を撫でた。
しばらく鬼姫は武の額にいつの間にか浮き出てきた汗を、タオルで拭ってやっていた。それから、高取と湯築の方を見たようだ。
「高取さん。地姫の訓練は、かなり不思議よ……頑張って。それと、湯築さん。蓮姫が呼んでいる」
ここは、修練の間。
社の一端に位置した。周囲を灯籠で灯された薄暗い間である。広い間で、そこに蓮姫が佇んでいた。湯築が畳の上を歩いていると、蓮姫は頷いた。
「いい足ね」
どっしりとした重い空気の間であった。ところどころから身を圧してくる生暖かい空気に、湯築は自然と額に汗がにじみ出てきたようである。
「さあ、この槍を持って」
「ととっ、重いわ……」
蓮姫の渡した一際長い槍に、湯築はバランスを失い困った顔をした。体中で持つかのようである。
「足に重点を置くんじゃなくて、腰に置いて、そして呼吸を整える」
蓮姫はもう一本の槍を軽々携えたようだ。この修練の間の壁には、様々な武器が掛けてあった。湯築は槍の重さでまだグラついているようだ。 ここから見ても重そうな槍だった。
「知ってる? 私は海神を祀る巫女。あなたは私と一緒に海や川。水の上を歩けるようになるの」
湯築は目をオーバーに回し、
「この槍を持って?」
「そうよ。後、三カ月間で習得してもらうわ。できないことは、教えないから。ハイッ!」
突然、蓮姫は槍を湯築の目前で、薙ぎ払った。
すると、風圧で湯築の後ろにある。かなり離れた灯籠の火が全て消えた。しかし、瞬く間に、灯籠には再び火が灯った。不思議な間である。
湯築はいきなりのことに驚いて、腰を抜かしたようだ。
「あ、危ないんじゃなくて!?」
「これくらいができないと、こっちも困るのよ」
蓮姫は一呼吸置いて、槍を振り回して、構えた。
湯築は負けじと、その構えを真似たようだ。
湯築は何やら蓮姫との稽古を必死にしている。恐らくは、武に負担を掛けたくないのだろう。
この修練の間には、時間割というか。入る番がある。最初は蓮姫と湯築の番だ。
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