第16話 

 昼の二時をだいぶ回ったところだ。

「御目覚めましたか?」


 ここ朱色の間の武の隣に座る鬼姫は、昼餉をわざわざ運んでくれていたのだ。盆の上には、白米と猪肉。味噌汁に漬物。煮物が暖かそうな湯気を出している。ここから見ても、とても美味しそうだった。

「あ、ありがとう」

(よく見ると、可愛い顔をしてるんだなあ。まあ、せっかくだから食べよう)


 武は上半身だけ起き上がると、盆の前で疲労と腕の怪我、足の出血なども気にせずに律儀に「いただきます」と言ったので、やはり少々、真面目過ぎなのではとも思う。

 辺りには、箸の運ぶ心地よい音が響き渡った。

(そういえば、昼飯も食べてなかったな俺……)


 その時、巫女姿の湯築と高取が部屋へと入って来た。


「体は大丈夫!?」

「武!」


 湯築と高取は武の袂へと心配して来たのだが、鬼姫の鋭い殺気に似た威圧を受けて、二人ともたじろいでしまったようだ。

 鬼姫は何故か湯築にも冷たい。

 鬼姫も武を好いているのだろうか?

 この先、武には何が待ち受けているのだろう?


 湯築に高取か!

 良かった!

 無事で……。


 ……。


「武様!」

「武様!!」

「武様!!!」


 あの三人組も来たが、同じく鬼姫は恐ろしいとまで言える冷たさで顔を向けた。

 だが、三人組はまったく気にしていないようだ。

「大丈夫ですか?」

 片岡が武の腕の包帯を巻いた傷口を覗いている。

「ああ……。だいぶ良くなったよ。ありがとう。それにしても、鬼姫さん……。怖……俺はこれからどうなるんだ? 稽古なら今すぐにしたい気持ちだけど、傷が治らないとやっぱりまずいよなあ。あ! ご馳走様でした!」

 武は全て食べ終わり、箸を置いていた。

(満腹だし、これからすぐに行動とりたいけど)


 鬼姫は一転して、花が咲いたような笑顔になった。


「ええ、まだお休みしていてください」


 高取は何やら鬼姫に向かって、あからさまに観察するかのような鋭い目を向けている。かなり失礼だが、その気持ちもわからなくもない。恐らく……やきもちであろう……。

 盆を片付けに部屋を出た鬼姫をしり目に、湯築と高取はすぐに武の袂へと近づいた。

「武! 良かった! みんな無事で! ……武」

 湯築は武に抱きつき最後は尻つぼみの涙声である。

 命からがらの日曜日の屋上から、皆生還したのである。

「私もあの時は死ぬかと思ったわ……でも、まだ序の口よ……」

 高取は佇み不穏なことを呟いたようだ。

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