第10話
そういえば、いつもの三人組の中の美鈴がいない。
広い体育館は、照明が消えかかり。暗く。とくに目立った話し声もない。
人々のやるせない気持ちが鬱屈していてとても静かだった。
武と麻生の両親はどこにいるのだろう?
「武。携帯が繋がらないわ。武のお父さんとお母さんも探してくるわね。どこへも言っちゃダメよ」
いつも笑顔を絶やさない麻生は、今はさすがに疲れと陰りがないまぜになった顔であった。
「わかった。あ、そうだ。麻生。こいつも連れて行って探してもらえ。あ、ところで、河田。お前たちの家族は? もしかして、いないんだったら。最初にこいつらの家族を探してやろうよ」
武は優しく三人組のうちの河田に言った。
「いいんでス。いいんでス。武様! すぐに麻生さんと武様のご両親を探してきますね。私の家族は、あっち!」
河田の指差す方へ武は首を向けると、体育館の右端でその家族であろう大勢が手を振っていた。
「この体育館にいるはずッス」
河田がそういうと、麻生を連れだった。
武は水を含んだ上着を脱ぎ捨て、
「もう一人は? いつも一緒だったろ?」
片岡は肩をすくめている。
「武様。それも大丈夫です。卓登先輩と一緒に学園内を捜索中です。もうすぐ救援物資が来るって先生たちが言ってましたので」
「ほっ、ずいぶん準備が良いんだな」
武は感心すると、高取の顔を思い出した。
こんな時こそではあるのだが、肝心の高取も学園内を何やら探していた。
それは……後にわかるであろう。
学級委員でもある武の役目は、最初から決まっていた。そう、みんなの無事と人数の確認である。
当然、麻生も口には出さないがもともと周知のことであったようだ。
「さあて、確認。確認っと」
(急いで確認しないとな)
僅か数分で武は体育館にいる全生徒数とその家族の数。怪我などのあるかないかまでを調べ上げていた。
途中、湯築が武に、「これから、どうなるの?」と不安げな顔で聞いてきたが、武は今は自分の役目のことしか考えていなかったようだ。
「今じゃ世界中で安全な場所なんてないからな。仕方ないから高取に聞いてみよう」
(まあ、今考えても仕方ないんだし)
としか言わない。少々真面目過ぎで、やはり少しだけ抜けているのだろう。
こんな時でもどこか微笑ましかった。
ぽたぽたと降る雨の中で、ずぶ濡れになった高取は旧校舎の入り口にいた。世界中の雨を気にしないものが、そこにあるかのようだ。
高取はボロボロの旧校舎へと入っていった。
そう。この旧校舎には、幾つもの救命具があるのだ。
高取はそれを数個持ち出した。
一方。
麻生と河田は卓登と美鈴と合流して、まだ人がいないかと学園内をくまなく探していた。
もうすぐ救援物資や自衛隊がくるのだが、念のためである。
麻生は何気なく。薄暗い廊下から窓の外を見た。
水かさがみるみるうちに膨れ上がっていた。
ここは高い丘の上にあるが、もうすでにグラウンドまでが沈みだしていたのだ。
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