人を統べる色と判断された男が最初に発した命令とは

日諸 畔(ひもろ ほとり)

黒色は支配者の色

 人にはそれぞれ『色』がある。

 色は各個人の内面を表す。生まれ持った資質や育った環境により、色は決まる。同じ色は二人としていない。

 ただし、ある程度の傾向はみられる。例えば、赤色が強いものは情熱的であったり、青みが強い者は理知的であったり。

 色からわかる人の性質は、職業への適性や恋愛の相性など、官民問わず様々な分野で活用されていた。

 

 この国では法令により、自らの色を明示する義務がある。稀に経年で色の変わる者がいるため、定期的に色検診を受ける必要もあった。


 そして、色診断書を前に、頭を抱える男が一人。


 男の名は結崎ゆうざき 俊樹としき。機械設計エンジニアとして働いている、ごくごく平凡なサラリーマンだ。少年時代から去年までの診断結果は、青が強かった。

 経験や生活により、色が多少変わることは珍しくない。ただし、あくまでも多少だ。青が紫みをおびることはあっても、赤になることはない。それが一般常識だった。


 しかし、俊樹の手にある紙は、真っ黒だった。


「どうするんだよこれ……」


 人類史上、黒を持った者は少ない。そして、その誰もが歴史に名を刻んでいた。

 ある者は大陸を支配した絶対的な王。またある者は数万人を虐殺する指示を出した独裁者。

 善行や悪行が入り乱れるが、誰もに共通する事があった。それは、多くの人を統べ歴史に残る何かを成し遂げること。

 

「俺、そんなの無理だよ」


 俊樹は今年で三十二歳。いわゆるヒラ社員である。部下を持ったことはない。子供の頃も学級委員やら生徒会やら、そういうものとは縁遠い人生を送ってきた。

 そんな自分が人の上に立つなど、まるで想像できなかった。

 途方に暮れアパートの天井を見つめた時、外に繋がるドアから衝撃音がした。誰かがドアを強く叩いているのだろう。そして、相手の見当はつく。


「結崎様! 色相検査局の者です!」

「来ちゃったよ……」


 定期検査後の色は、自動的に近隣の役場へと報告される。黒が現れたという異常事態であれば、すぐさま動きがあって当然だ。


「あーもう、やだなぁ」


 俊樹はふらりと立ち上がり、ゆっくりとドアを開けた。その先ではスーツ姿の男が数人、腰を直角に折り頭を下げていた。


「お迎えにあがりました!」


 リーダーらしき男が声を張り上げる。異様に緊張している様子が手に取るようにわかった。


「あーはい、頭を上げてください」


 それが、後に完全世界平和を成し遂げる結崎 俊樹が発した最初の命令であった。 

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人を統べる色と判断された男が最初に発した命令とは 日諸 畔(ひもろ ほとり) @horihoho

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