幾度塗りつぶされようとも、塗り返す

仁志隆生

幾度塗りつぶされようとも、塗り返す

 いろんな色があったね。

 空にも雲にも、花にも土にも水にも火にも、全部に色があったよね。


 けど、今は全部真っ黒。

 だって、もう光が無いから……。

 


 あいつらは全部消したし、希望も全部封じた。

 これでもう、

 ぬふふふ……。




 暗闇の中で呟く少女。

 その顔には満面の笑みが浮かんでいるが、その体は黒い霧のようなもので覆われていた。


「やっぱあたしはこれかな。赤いスカートも白いシャツも前に着てた桃色小袖も好きだけど……あんな人達ばっかりだったらなあ」

 ほんの少しだけ愁いを帯びた顔になったが、すぐ元に戻った。


「さてと、今日はお兄ちゃん達と遊ぼうかな」

 そう言ってどこからか三つの人形を愛おしそうに取り出し、並べて置いた時だった。

「あれ? 今なんか光った?」

 少女が辺りを見渡すと、遠くに小さい星のような白い光が見えた。

「なんで? もう全部真っ黒のはずなのに?」

 その光は少しずつ大きくなっていき、暗闇をゆっくり白く染めていく。


「ねえ、もう光らないで」

 少女が光に向かって言うが、光は止まることがなかった。


「ねえ、そんなにまた苦しみたいの?」

 少女が悲しげに言う。

 すると、


”だってこのままじゃ、いろんな色が見えないじゃない”

 光から微かにだが声が聞こえた。


「かもしれないけど、醜いものも見えちゃうよ」


”そうかもね。けどそれすらも受け入れてこそ”


「あいつは受け入れるどころか逃げ出したよ」

 

”……そう。けどさ”

 

「それよりあんた何者? なんでそこにいるの?」


”なんでもいいでしょ”


「え?」


”あなただって自分のこと、そう言ってるじゃない。いやあなたは自分が誰だったか忘れてるようだけど”


「何言ってるの。あたしはアヤ……いいえ、私は」

 少女の姿がいつの間にか、一糸纏わぬ成人女性になっていた。


「え? この姿になったのは、この人といた時だけだったのに」

 そう言って足元にある人形の一つを見つめる。


”あなたの本当の色はそれだよ。あいつとやらが悪いのは否定しないけど、全てを、あなた自身を黒くすることはないでしょ“


「へえ、黒が悪い色なの?」

「見た目の色じゃない。心の色がだよ」

 光もまた人の形を取っていく。


 それは少女と同じくらいの年頃の少年。

 ただ、体が透けて見える。 


「……消えてなかったのね。姿形は違うけど」

 彼女が彼を睨みながら言う。


「ううん。ほんの一欠片が残り、それがこの子の中に宿ったと言えばいいかな? それと僕だけじゃないよ」

 彼がそう言うと、小さな光が遠くにいくつも現れた。 


「まだあんなに残ってたの? ぐ、それならもう一度」

「無駄だよ。そもそもあなたにも、あの白い光はあるのだから」

「何を言ってるの? もう私には」

「あるよ。だからたとえ幾度黒く塗りつぶされようとも、白く塗り返すんだ」

「……そう。けどそれもここで終わらせるわ」

「させないよ……今はまだだけど、いつかあなたを」


" そこから助け出すからね ”

 最後にそう言って、彼は姿を消した。



「……ぬふふふ、させない。今度こそ塗りつぶすんだから」

 少女アヤはそう言って、小さな光の方へ歩いて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幾度塗りつぶされようとも、塗り返す 仁志隆生 @ryuseienbu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ