幻夢鏡

 いつも夢を見る。


 起きている時と似た世界。

 そこで私は普通の女の子の様に――ううん。それ以上に楽しそうに生活していた。


 お母さんに元気よく「おはよう」を言い、猫のアーサーと戯れる。自転車にも乗れ、学校では友達の輪の真ん中。


 毎日が輝いていた。


 世界は、音と色で満ちていた。



 しかし、ある時から異物が紛れ込んだ。

 鮮やかな世界で唯一色を失った白黒モノクロの少年。


 ――彩雅正明。


 あの日――初めて彼の素顔を見た日から、彼は色をなくした。


 初めこそ警戒した。

 彼が私の世界を壊すのではないかと。

 しかし、彼は何もしてこない。

 ただ悲しそうな顔で私を見つめてくるばかり。


 

 何もしてこないのであれば、それでいい。

 ここは私だけの世界。

 本当の私がいる世界。


 

 私は次第に夢の世界の虜になっていった。


 

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