出会い

 「彩雅正明さいがまさあきです。よろしくお願いします」


 その男子生徒は転校生だった。


 長身できれいな顔立ちと大人びた立ち振舞。それでいてスポーツ万能。


 彼はすぐにクラスに、学校に打ち解けていった。


 しかし、誰も一定以上彼と親しくなることはなかった。

 彼がそれを拒んでいるためだ。――誰にも気付かれないようにだが。


 ソレには彼の身体的理由があった。


「彩雅の眼鏡っていつ見てもゴツいよなー」


 お調子者の男子が彼の眼鏡――ゴーグルと保護眼鏡の中間のような、目の周りを覆い隠すタイプでレンズの色も黒――を触ろうとした。


「――ッ⁉」


 突然その手を払い除けた。

 反射だったのだろう。普段温厚な彼の豹変に時間が一瞬停止した。


「わ、悪ぃ。ソレないと見えないって言ってたもんな」

「あ、いや。僕の方こそゴメン」


 互いに謝り、その場は有耶無耶になった。


 転校初日。

 見慣れないサングラスをして教室に入ってきた彩雅について、担任は「目の病気でこのサングラスがないと日常生活に支障をきたす」と説明していた。



「じゃあな〜」

「またねー」

「さよならー」


 放課後。大半の生徒が部活動に向かう中、彩雅は一人教室を後にする。

 向かう先は保健室。


「失礼します」

 ノックして、中に入る。どうやら養護の先生は席を外しているようだ。

 ちょうど良かった。


「……ふぅぅぅ〜」


 深いため息をはきながら、ベッドの一つに腰を下ろした。

 そして、頭の後ろに手をやり、眼鏡を固定してきたバンドを、眼鏡を外す。


 開放された目の周りに当たる空気が気持ちいい。

 


 眼鏡サングラスをどけたことで、視界が色を取り戻す。世界の色鮮やかさが網膜を鋭く刺激する。


「〜〜〜痛っ」


 突然の刺激に、眉間を押さえる。


「……ふぅ、ちょっと慣れてきたか」


 数分後、目をしばたかせながら視界を確認した彩雅が満足そうに呟いた。


 そして、その時それは起こった。


 ガラッ


「……え?」

「……え?」


 突然の保健室の扉が開き、一人の女子生徒が入ってきた。

 そして、互いに――女子生徒の方は誰もいないと思っていた。彩雅の方は保健の先生以外は誰も来ないと思っていた。

 そんなに互いの思いに反して見つめ合った二人は、互いに間抜けな顔で時間を停止させた。



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